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14 欲しいものと必要なもの
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しおりを挟む「ははは。図星だ」
「やめてよ、恥ずかしい」
赤ん坊を抱いた旦那さんと目が合った気がした。聞こえていたかもしれない。
「試しに付き合ってみたらいいじゃん。ひとまず結婚とか、置いといて」
「簡単に言ってくれるよね」
「彩は難しく考えすぎるんだよ」
「それ、千堂課長にも言われた」
「え?」
私はアイスコーヒーを飲んで、口の中をさっぱりさせた。
「私はどうしたいのか、って」
「へぇ……。で、なんて答えたの?」
「別に……」
「なに、それ」
「だって、よくわからないんだもん」
「そう、言ったの?」
「え?」
「『よくわからないんだもん』」と、蓉子が私の口調を真似て言った。
全く似ていないけれど。
「言ってない!」
「言えばいいのに」
「は?」
「素を見せてみたら?」
「……」
素……。
「相手は上司だし? 簡単ではないだろうけど、猫被ったまんま付き合っても疲れるだけでしょ」
「猫なんて被ってないけど?」
「よく言うよ。実は狼のクセに」
「はあ? どこが!?」
「しかも、一匹狼だから質が悪い」
私は聞こえない振りをして、ドリアの最後の一口を食べた。
「その上、子連れになってパワーアップしたし」
黙って聞いていれば、酷い言われよう。けれど、私のことで知らないことはない蓉子には、何も言い返せない。
「あんたが本気で毒突いたとこ見たら、二人とも逃げるかもよ?」
「あーーー……。見られたこと、あるわ」
「マジで!?」
私は京本さんとの一部始終を話した。ばばあ呼ばわりされて、子供を引き合いに出されてキレかけたこと。千堂課長がその場から逃がしてくれたこと。
もうひと月以上前のことだし、社内で京本さんと顔を合わせることもないから、根に持ってはいない。
その後の、千堂さんとのあれこれで、正直忘れかけていた。
「なに、そのバカ女! 張った押してやればよかったのに!」
いやいや、張った押すって……。
「今の時代、四十なんてばばあの『ば』にも引っ掛からないっつーの! 気持ちはまだまだ二十代だし」
「いや、気持ちだけじゃダメでしょ。実際、若い子の話を聞くと年を感じるよ。あの子たちきっと、ポケベルやPHSなんて知らないよ? 高校時代からスマホを持ってる世代なんだから。ルーズソックスって今もあるの?」と、私は力なく言った。
「探せばあるでしょ! あると信じたいわ」
「子供の頃好きだったジャ○ーズのグループとか、怖くて聞けないし」
「あ! 私、まだイケる! キ○プリ、結構好きだし」と、蓉子が嬉々として言った。
「私、嵐で時代止まってる」
「それは、ヤバいわ」
「真と亮が歌ってる歌も、全然分かんないんだよねぇ」
「――って話してみたら?」と、蓉子がスプーンを置きながら言った。
「誰に?」
「二人の課長に」
「なんで?」
「そんなくだらない会話も必要だってことよ。前の旦那とは、そんな会話すらなかったんでしょ?」
くだらない会話……か。
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