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10 女の闘い
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しおりを挟むだけど……。
「好きです」
千堂課長が顔を上げて、言った。
「あなたが好きです」
そう言い切った課長の真剣な表情に、心臓が大きく跳ねた。
男、を感じた。
けれど、次の瞬間には、またちょっと弱気な課長に戻っていた。
「だから何だって……感じですけど……」
「ごめんなさい」
私の言葉に、課長が驚いた顔をした。次に、焦り。
「え……、あの、何が……。いやっ――! えっと……違うんです」
私は、課長がどうしてそんなに動揺しているのか、わからなかった。
だから、私まで動揺してしまった。
「課長? あの――」
「返事が……欲しかったわけじゃ――」
ああ……、なるほど。
課長は私の『ごめんなさい』を、告白の返事だと思ったのだろう。
「あの――」と言いかけて、私は口をつぐんだ。
『あんまり千堂に気を持たせるなよ』
智也の言葉を思い出す。
二人の男を天秤にかけるような、器用な真似は出来ない。そもそも、智也と寝ていながら、千堂課長の告白の返事を迷う資格なんて、私にはない。
課長が真剣に想いを伝えてくれたのだから、私も真剣に応えるべきだ。
「課長の気持ちは本当に嬉しいです。でも、私は気持ちを受け入れることは出来ません」
「それは……溝口課長が好きだからですか?」
「溝口課長とは……そういうんじゃ――」
「なら、どうしてですか? 五歳も年下の俺なんて、対象外ですか」
少しムキになって、課長が食い下がる。意外だ。
「私、再婚はしないんです」
「え?」
「溝口課長とお付き合いしているのは、利害が一致しているからです。詳しくは話せませんけど」
「それは、溝口課長に結婚願望がないから、ですか?」
「いいえ。私に、結婚の意思がないんです。千堂課長は、それでも私と付き合いたいと思えますか?」
課長と、視線がズレた。
これが、答え。
恋人が出来たら結婚を意識する年齢だろう。少なからず結婚願望があるのなら。
けれど、私は再婚はしない。
離婚した時に、決めた。
付き合い始めてから知らされるより、知った上で付き合うのかを決めた方がいい。
「そういう……ことです」
私は握りしめていたハードカバーのファイルを棚に戻し、言った。
「真と亮に優しくしていただいて、ありがとうございました」
課長は何か言いたげだったけれど、私は気づかない振りをして部屋を出た。
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