最後の男

深冬 芽以

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10 女の闘い

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「彩」

「なに!」

「あんまり千堂に気を持たせるなよ」

 急に真顔で言われて、ドキッとした。

「受け入れる気がないのなら、さっさと――」

「どうして、受け入れる気がないと思うの?」

「俺と別れて千堂と付き合うつもりなら、セックスの後で俺に話したりしないだろ」

「智也が聞いたんじゃない」

「……」

 智也は無反応でコーヒーをすすった。

 都合が悪いと聞こえない振りなんて、ホントに子供みたいだ。

「課長」

「課長、ヤメロ」

「聞こえてるんじゃない」

「タバスコ、欲しかったな」

「千堂課長、どこまで本気だと思う?」

「俺に聞くか」

「……だよね」

 正直、困っている。

 年齢的には子ども扱いしてはいけないけれど、千堂課長を見ていると『若さ』に気圧されてしまう。

 もちろん、仕事の面では年相応の落ち着きや厳しさがあって、尊敬できる。けれど、三人の課長に比べると、時折見える余裕のなさが、経験の浅さや性格を表していると思える。

 若くして結婚していれば、真くらいの年の子の父親でもおかしくないのだろうけれど、子供たちと遊んでいる姿は『父親』と言うよりは『親戚のお兄ちゃん』のようだった。だからこそ、微笑ましく感じられた。

「千堂課長って、一人っ子っぽいですよね」

「ソウデスネ」と、智也はわざとらしくカタコトで言った。

「そうなの!?」

「知らねーよ! つーか、俺の前で千堂あいつの話なんかすんな」

「最初に聞きたがったのは智也じゃない」

「あんな、あからさまに挑発されたら気になるだろ」

「相手にしなきゃ良かったじゃない」と言いながら、内心ではちょっと嬉しかった。

「とか言いながら、実はちょっと浸ってるだろ」

「はい?」

「『私のために喧嘩しないで』とか」

「先に言わないでよ。そのうち、言おうと思ってたのに」

 私たちは顔を見合わせて、声を出して大笑いした。
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