最後の男

深冬 芽以

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9 いびつな三角関係

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「お菓子作りって分量が正確じゃないと上手くいかないの。小麦粉を何グラム、砂糖を何グラム、って。それなのに、ポマード状になるまで泡立てるとか、ツノが立つまで泡立てるとか、工程はざっくりで。その上、仕上げのデコレーションはセンスが問われるじゃない」と言いながら、醤油や卵で味付けをしていく。

「見ての通り、切り方も味付けもざっくりな私には、デリケートなケーキは無理!」

 ジップロックの封をして、軽くもみ込んで、冷蔵庫に入れる。

「具体的には、どう失敗するんだ?」

「……スポンジが膨らまないの」

「あーーー。……それは失敗だな」と言って、智也がハハッと笑った。

「でしょ!」

「怒らなくてもいいだろ」

「怒ってないし!」

「ケーキはいいから、シようぜ」

 急に声が甘くなって、背後から抱き締められた。

「ちょ――。今の話の流れで、どうしてそう――」

 強引に首を回されて、言葉を失う。開きかけの唇は閉じることを許されず、あっさりと彼の舌が侵入してきた。

 この部屋で過ごした三日間の後、こうして二人きりになる時間がなかった。

 智也は相変わらず忙しくて、食事を作りに寄っても、智也を待つことはしなかった。真冬の夜遅くに外を歩きたくなかったし、それは智也も同意してくれたから。

 だから、顔を合わせるのは会社だけで、他には電話かメッセージで短い会話を交わすだけ。

 二週間前の小会議室での会話とキス以外は。

 そんなわけで、智也には千堂課長から告白されたことも、課長の家にお邪魔したことも話していない。

「千堂と何かあっただろ」

 唇同士が僅か数ミリの距離で、智也が言った。智也の瞳に映る私が見えた。

 言葉にしなくても、『あった』とわかる間抜け面。

「あ……の……」

「後で全部聞くからな」

「え?」

 智也は私の手首を掴んで寝室に連れて行くと、少し乱暴に服を脱がせた。

「ちょっと、待って!」

 智也が不機嫌なのがわかる。怒っている、のかもしれない。

 このまま抱かれるのは少し、怖い。

 それなのに、三週間ぶりの感触に身体が熱くなる。

 あっという間に一糸まとわぬ姿にされて、ベッドに押し倒された。

「課長!」

 言った瞬間、胸の先端を噛まれた。鋭い痛みが走る。

「いっ――!」

「何度言ってもわからないなら、身体に仕込むか」

 意地悪そうな智也の笑みに、背筋がゾクッと寒くなる。

 怖い、とかじゃなく、興奮した。

 恥ずかしくなってギュッと目を閉じると、与えられる快感に敏感になり、前後不覚になった。

 私を愛撫しながら、カチャカチャとベルトを外す音がして、器用だな、と思った。

 急いでいるのか、智也はすぐにゴムをつけた。

「なんかさぁ……」

 ふっと目を開けると、智也の顔が正面にあった。

 指が膣内なか挿入はいってきて、思わずまた目を閉じる。

「んっ――!」
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