72 / 212
9 いびつな三角関係
8
しおりを挟む智也が立ち止まり、私はぶつかる寸前でそれに気がついた。くるっと振り返った智也は、無表情だった。
誕生日を祝われたくないのか、と思った。
私も年々、誕生日は憂鬱になる。
「チーズケーキ以外は食わない」
「え?」
「チョコレートケーキなんて用意したら、お前に全部食べさせるからな」
吐き捨てるように言った智也の顔が、少しずつ赤みを帯びていく。
誕生日を祝われるの、実は嬉しい?
「泊まれんの?」
「……うん」
智也の誕生日は来週の土曜日。
ちょうどその日、子供たちを父親の元に行かせることにした。
「子供たちが体調を崩さなければ」
「……わかった」
「……うん」
そう。子供がいると、何を差し置いても子供優先。そして、大事な約束がある時程、子供はよく体調を崩す。
子供を持つ女と付き合うということは、そういうこと。
さらに、今時期はインフルエンザが猛威を振るっている。社内でも数人、インフルエンザで欠勤していた。
「お前も体調崩すなよ?」
「……課長も」
私たちは顔を見合わせて笑い、部屋を出た。
そろそろ、食事に出た人たちが廊下を通る。その前に、戻らなければ。
小会議室から智也と二人で出て来たのを見られたら、何を噂されるか考えたくもない。
けれど、そうやって警戒している時に限って見つかってしまうのも、良くあること。
「あ、堀藤さん!」
よりによって……。
智也も同じことを思ったようで、和やかな表情が一瞬で無表情に変わった。
千堂課長。
課長は先に会議室から出て来た私しか見えていなかったようで、後から出て来た智也を見て、表情を硬くした。
自分の人生で、男性二人が私を挟んで睨み合う状況が訪れるとは思っていなかった。
僅かな優越感と、かなりの緊張感。
私は心の中で深呼吸をした。
「お疲れさまです」と、仕事用の顔で千堂課長に言った。
「あ、お疲れさまです」と、課長は智也から私に視線を移した。
「どうかしましたか?」
「はい。揃えてもらいたい書類があったんですけど……」
「今、行きます」
私は智也に軽く会釈をして、課長と一緒にデスクに戻ろうとした。が、グイッと腕を掴まれて、もう少しで前のめりに転ぶところだった。
「さっきの話忘れるなよ、彩」
智也が言った。私ではなく、千堂課長を見ながら。
さすがに、わかる。
智也が課長を挑発していると。もしくは、牽制。
大人気ない、と思った。
そして、年下ではあるけれど、千堂課長が相手にしないことを願った。
「誤解を招く言動は控えるべきじゃないですか、溝口課長」
願いは虚しく、打ち砕かれた。
「誤解?」
「他の社員に見聞きされたら、お二人が特別な関係にあると誤解されますよ」
「誤解じゃなかったらいいのか?」
微かに話し声が聞こえて、私は咄嗟に智也の手を振り解いた。一瞬、智也が驚いた顔をして、けれど、すぐに振り払われた手をスラックスのポケットに隠した。
「誤解されて立場が悪くなるのは堀藤さんなんですから、気を付けてください」
千堂課長が智也に言った。
直後、智也の背後三十メートルほど先の角を、女性社員何名かがこちらに向かって曲がってきた。ランチを終えて戻って来たのだろう。
智也は後ろを振り返らず、歩き出した。そして、千堂課長のすぐ横で一瞬、立ち止まった。
「その言葉、そのままお前に返してやるよ」
そう言って、チラリと私を見て、遠ざかって行った。
意外にも千堂課長は冷静で、表情を変えることなく私に仕事を指示した。
10
お気に入りに追加
417
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる