23 / 212
4 提案
3
しおりを挟む
真心は俺が来たことにも気づかないくらい真剣に、お菓子を見つけている。
「けど、真心の欲しいものなんて――」
「二百円分のお菓子を買ってもいいって言ったんです」
「真心は計算出来ないだろ」
「だから、欲しいものを聞いて、買えるものを教えてあげたんです。で、ああして悩んでるんです」
まだ、しばらくかかりそうだな、と思った。
「あんた、今日は何時までいてくれる?」
「七時までに帰れば……」
俺は財布から五千円札を出し、彼女に渡した。
「真心に聞いて、昼飯も買っておいてくれないか。俺は外で電話してくるから」
「あ、課長は何が食べたいですか?」
「何でもいい。それから、『課長』呼びヤメロ」
俺はスーパーを出て、義兄に電話した。十回は呼び出したと思う。けれど、出なかった。
まだ、生まれてないのか……?
スーパーの中に戻ろうとした時、義兄からかかってきた。
「もしもし」
『智也くん、無事に生まれたよ』
「良かったです」
『真心はどうしてる?』
移動中らしい。車のエンジン音や横断歩道の音楽が聞こえる。
「大丈夫ですけど、いつ迎えに来られますか?」
『これから出張に行かなきゃいけないんだ。早くて明日のこの時間に帰って来るから、昼までには迎えに行くよ。あ、地下に入るから切るよ。真心をよろしくお願いします』
「は? ちょ――」
一方的に、電話は切れた。
明日は月曜だぞ――。
月曜の朝は部内会議がある。部長と三人の課長で。先週の報告と、今週の予定を報告する。
くそっ――!
どうにもならないことをどうにかならないかと考えていた時、真心と堀藤がスーパーから出て来た。手を繋いで。堀藤の片手には、大きな買い物袋。
「電話、終わりましたか?」
「ああ」と言って、俺は彼女の手から買い物袋を掬い取った。
「行こう」
その瞬間。
彼女が目を丸くした。
俺は思わず買い物袋に視線を落とした。
普通の買い物袋だ。
次に考えた。
強引だったか?
「おばちゃん?」
彼女の一歩が踏み出されないことに気がついた真心が、彼女を見上げた。
「あ、ごめんね。行こうか」
彼女は真心に言い、手を繋いで歩き出した。
訳が分からずにいる俺の横を通り過ぎた彼女は、嬉しそうに見えた。だから、俺は益々訳が分からなくなった。
俺の家はマンションの七階で、角部屋の4LDK。結婚を意識してのことではなかったけれど、五年前に不動産会社に勤める友人の勧めで、完成間近にキャンセルになった物件を友人価格で購入した。三十年ローンで。けれど、この五年で五年分の繰り上げ返済が出来たから、残りは二十年。このままのペースだと、あと十年で完済できる。
このまま、独身でいれば。
「けど、真心の欲しいものなんて――」
「二百円分のお菓子を買ってもいいって言ったんです」
「真心は計算出来ないだろ」
「だから、欲しいものを聞いて、買えるものを教えてあげたんです。で、ああして悩んでるんです」
まだ、しばらくかかりそうだな、と思った。
「あんた、今日は何時までいてくれる?」
「七時までに帰れば……」
俺は財布から五千円札を出し、彼女に渡した。
「真心に聞いて、昼飯も買っておいてくれないか。俺は外で電話してくるから」
「あ、課長は何が食べたいですか?」
「何でもいい。それから、『課長』呼びヤメロ」
俺はスーパーを出て、義兄に電話した。十回は呼び出したと思う。けれど、出なかった。
まだ、生まれてないのか……?
スーパーの中に戻ろうとした時、義兄からかかってきた。
「もしもし」
『智也くん、無事に生まれたよ』
「良かったです」
『真心はどうしてる?』
移動中らしい。車のエンジン音や横断歩道の音楽が聞こえる。
「大丈夫ですけど、いつ迎えに来られますか?」
『これから出張に行かなきゃいけないんだ。早くて明日のこの時間に帰って来るから、昼までには迎えに行くよ。あ、地下に入るから切るよ。真心をよろしくお願いします』
「は? ちょ――」
一方的に、電話は切れた。
明日は月曜だぞ――。
月曜の朝は部内会議がある。部長と三人の課長で。先週の報告と、今週の予定を報告する。
くそっ――!
どうにもならないことをどうにかならないかと考えていた時、真心と堀藤がスーパーから出て来た。手を繋いで。堀藤の片手には、大きな買い物袋。
「電話、終わりましたか?」
「ああ」と言って、俺は彼女の手から買い物袋を掬い取った。
「行こう」
その瞬間。
彼女が目を丸くした。
俺は思わず買い物袋に視線を落とした。
普通の買い物袋だ。
次に考えた。
強引だったか?
「おばちゃん?」
彼女の一歩が踏み出されないことに気がついた真心が、彼女を見上げた。
「あ、ごめんね。行こうか」
彼女は真心に言い、手を繋いで歩き出した。
訳が分からずにいる俺の横を通り過ぎた彼女は、嬉しそうに見えた。だから、俺は益々訳が分からなくなった。
俺の家はマンションの七階で、角部屋の4LDK。結婚を意識してのことではなかったけれど、五年前に不動産会社に勤める友人の勧めで、完成間近にキャンセルになった物件を友人価格で購入した。三十年ローンで。けれど、この五年で五年分の繰り上げ返済が出来たから、残りは二十年。このままのペースだと、あと十年で完済できる。
このまま、独身でいれば。
10
お気に入りに追加
417
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる