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3 食事の後の緊急事態
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何の気なしに差し出した手に、彼女が肩を竦め、顔をそむけた。その反応に、思わず俺の手が行き場をなくす。
「先に……真心ちゃんの髪を乾かすので、終わったらお水を飲ませてあげてください。少しお腹が空いているようなので、プリンかパンも……」
「ああ……」
俺はタオルを彼女の肩に置き、手を離した。
「風呂のお湯は替えなくていい。俺は気にしないから」
彼女は何も言わずに、真心の元に戻って行った。すぐにドライヤーの音が聞こえた。
自分の鼓動の速さに気付いた。
子供じゃあるまいし、あれくらいで、何を動揺しているんだか――。
俺はテーブルの上に買って来たものを並べ、ソファに腰を落ち着けた。
「おじちゃん、お水ちょーだい!」
髪を乾かし終えた真心がソファに飛び乗る。俺は水をコップに移して、手渡した。
洗面所からはまだ、ドライヤーの音。
「風呂、広かったか?」
「うん!」
「そうか」
「おじちゃんとおばちゃんはコイビトなの?」
「はっ!?」
四歳児から『恋人』なんて言葉を聞くとは思っていなかった。
「好きだけど結婚してない人はコイビトなんでしょ?」
「どこでそんなこと覚えるんだよ」
「幼稚園の先生が言ってた!」
その幼稚園、大丈夫か……?
「だから、真心とナツくんもコイビトなの」
「……ナツくんて?」
「真心のカレシ」と言って、真心がパンに手を伸ばす。
俺は袋を開けて、渡した。
「だから、誰だよ」
「教育実習で来ていた大学生らしいですよ」
彼女が洗面所から出て来た。
髪はすっかり乾いて、首の後ろで緩く束ねている。
「大学生!?」
「はい。真心ちゃんの好きな人ですって」
「ナツくんも真心のこと好きだって」
「そんなの――」
「けど、ナツくんは他のお友達のことも好きで、他のお友達もナツくんのことが好きなんだよね?」
「うん! だから、ナツくんはみんなのカレシなの」
最近の幼稚園児はマセてんなぁ……。
「課長、お風呂どうぞ」
「ああ」
俺はジャケットとネクタイをベッドの隅に放り投げ、風呂に入った。
俺にしては長湯をした。
休日出勤から始まって、堀藤との食事、真心を預かるハメになって、彼女の部屋に泊まることになるなんて、まさかの連続だ。
彼女の入った風呂に入ってることも。
風呂から出ると、部屋は明かりが消えていた。窓際のランプが人影を映し、彼女がソファに座っているのが見えた。
「真心ちゃん、寝ちゃいました」
壁側のベッドの中央が少し膨らんでいて、真心の頭が見えた。
「疲れてたみたいで、食べたら寝ちゃいました」
「そうか……」
ベッドの上に置いたはずのジャケットとネクタイはなくなっていた。
「スーツ、掛けておきますね」
彼女が伸ばした手に、脱いだスーツを託す。
「悪い」
彼女から、俺と同じ香りがした。
「先に……真心ちゃんの髪を乾かすので、終わったらお水を飲ませてあげてください。少しお腹が空いているようなので、プリンかパンも……」
「ああ……」
俺はタオルを彼女の肩に置き、手を離した。
「風呂のお湯は替えなくていい。俺は気にしないから」
彼女は何も言わずに、真心の元に戻って行った。すぐにドライヤーの音が聞こえた。
自分の鼓動の速さに気付いた。
子供じゃあるまいし、あれくらいで、何を動揺しているんだか――。
俺はテーブルの上に買って来たものを並べ、ソファに腰を落ち着けた。
「おじちゃん、お水ちょーだい!」
髪を乾かし終えた真心がソファに飛び乗る。俺は水をコップに移して、手渡した。
洗面所からはまだ、ドライヤーの音。
「風呂、広かったか?」
「うん!」
「そうか」
「おじちゃんとおばちゃんはコイビトなの?」
「はっ!?」
四歳児から『恋人』なんて言葉を聞くとは思っていなかった。
「好きだけど結婚してない人はコイビトなんでしょ?」
「どこでそんなこと覚えるんだよ」
「幼稚園の先生が言ってた!」
その幼稚園、大丈夫か……?
「だから、真心とナツくんもコイビトなの」
「……ナツくんて?」
「真心のカレシ」と言って、真心がパンに手を伸ばす。
俺は袋を開けて、渡した。
「だから、誰だよ」
「教育実習で来ていた大学生らしいですよ」
彼女が洗面所から出て来た。
髪はすっかり乾いて、首の後ろで緩く束ねている。
「大学生!?」
「はい。真心ちゃんの好きな人ですって」
「ナツくんも真心のこと好きだって」
「そんなの――」
「けど、ナツくんは他のお友達のことも好きで、他のお友達もナツくんのことが好きなんだよね?」
「うん! だから、ナツくんはみんなのカレシなの」
最近の幼稚園児はマセてんなぁ……。
「課長、お風呂どうぞ」
「ああ」
俺はジャケットとネクタイをベッドの隅に放り投げ、風呂に入った。
俺にしては長湯をした。
休日出勤から始まって、堀藤との食事、真心を預かるハメになって、彼女の部屋に泊まることになるなんて、まさかの連続だ。
彼女の入った風呂に入ってることも。
風呂から出ると、部屋は明かりが消えていた。窓際のランプが人影を映し、彼女がソファに座っているのが見えた。
「真心ちゃん、寝ちゃいました」
壁側のベッドの中央が少し膨らんでいて、真心の頭が見えた。
「疲れてたみたいで、食べたら寝ちゃいました」
「そうか……」
ベッドの上に置いたはずのジャケットとネクタイはなくなっていた。
「スーツ、掛けておきますね」
彼女が伸ばした手に、脱いだスーツを託す。
「悪い」
彼女から、俺と同じ香りがした。
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