11 / 212
2 二歳年下の上司
5
しおりを挟む俺と彼女が一緒に退社した時の千堂の顔を、女性社員たちに見せてやりたかった。
状況が掴めず、呆然としていた。
「じゃ、行くか」と、俺はわざと言った。
千堂に誤解されるのを心配して、事情を話すかと思ったけれど、彼女は何も言わなかった。
「お疲れさまでした」と、千堂に挨拶しただけ。
少し、気分がいい。
「自虐趣味でもあるんですか?」
俺の車の助手席に乗った彼女が言った。
「なに?」
「わざと誤解されるような言い方をしましたよね?」
「それが自虐行為だと?」
「私なんかと噂になるなんて、屈辱でしょう?」
彼女は俺が最も嫌いな言葉の一つを言った。
『私なんか』と。
「それは、『あんたなんか』と食事に行く俺に、失礼じゃないか?」
彼女が何か言う前に、俺は少し乱暴に車を動かした。
どうしてこんなに腹立たしいのか、わからない。
確かに彼女は俺の嫌いな言葉を言ったけれど、それは俺の問題だ。いつもなら相手に一線を引いて終わる。
けれど、今は無性に腹が立った。
千堂だって怒るだろう。
自分が惚れてる女が、自分を卑下するような事を言ったら。
俺は彼女に惚れているわけではないが……。
ホテルまでの三十分は無言で、到着してようやく彼女が言った。
「すみません。折角お付き合いくださったのに」
「自虐趣味があるのはあんただろ」と、俺はシートベルトを外しながら言った。
「万が一、今日のことが噂にでもなったら、自分が俺を誘ったことにするつもりだろう」
「そんなこと――」
「生憎、俺は女に守られて喜ぶ性分ではない」
シートベルトで逃げられない彼女に覆い被さった。その瞬間、彼女の身体が石化した。
「誰かに聞かれたら『強引に食事に誘われて、無理やり抱き締められた』と言えばいい」
「そんな――」
ちょっとからかうつもりだった。俺らしくないけれど、本当に軽い気持ちだった。
けれど、彼女の柔らかさや、甘い香りが心地よくて、久し振りの人肌が恋しくなった。
まつ毛が触れるほどの距離で三秒ほど見つめ合い、それが必然化のように、顔を近づけた。
唇同士が触れる数ミリ手前で、今度は俺が石化した。
彼女がじっと俺を見ている。
キスしようとしてガン見されたのは初めてだ。
「寂しいバツイチ女になら、何をしても許されると思ってます?」
低く、落ち着いた声。
背筋がぞっとした。
「悪かった」
俺はパッと身体を離すと、彼女のシートベルトを外した。
「やめるか、食事」
「課長が……そうしたいなら」
10
お気に入りに追加
412
あなたにおすすめの小説
イケメンエリート軍団の籠の中
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
唯一の女子、受付兼秘書係が定年退職となり
女子社員募集要項がネットを賑わした
1名の採用に300人以上が殺到する
松村舞衣(24歳)
友達につき合って応募しただけなのに
何故かその超難関を突破する
凪さん、映司さん、謙人さん、
トオルさん、ジャスティン
イケメンでエリートで華麗なる超一流の人々
でも、なんか、なんだか、息苦しい~~
イケメンエリート軍団の鳥かごの中に
私、飼われてしまったみたい…
「俺がお前に極上の恋愛を教えてやる
他の奴とか? そんなの無視すればいいんだよ」
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!
めーぷる
恋愛
見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。
秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。
呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――
地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。
ちょっとだけ三角関係もあるかも?
・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。
・毎日11時に投稿予定です。
・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。
・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。
同居離婚はじめました
仲村來夢
恋愛
大好きだった夫の優斗と離婚した。それなのに、世間体を保つためにあたし達はまだ一緒にいる。このことは、親にさえ内緒。
なりゆきで一夜を過ごした職場の後輩の佐伯悠登に「離婚して俺と再婚してくれ」と猛アタックされて…!?
二人の「ゆうと」に悩まされ、更に職場のイケメン上司にも迫られてしまった未央の恋の行方は…
性描写はありますが、R指定を付けるほど多くはありません。性描写があるところは※を付けています。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる