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15.指輪を外しても

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 千尋と連絡がつかなくなって二日。

 謹慎なんてクソくらえだと彼女の家を訪ねてみても、留守。

 嫌な予感しかしない。

 最悪な、予感。

 監視役の課長にやんわりと千尋の様子を聞いても、「変わりない」と言うだけで、要領を得ない。長谷部課長も同じだった。

 それが一転。

 謹慎をして六日目。

 社長と専務が出張から戻り、俺の処分が言い渡されるであろうその日に、俺の謹慎は解けた。

 千尋は未だ、自分の家に帰っていない。


 とにかく状況を把握しようと、一週間振りにワイシャツに袖を通していると、インターホンが鳴った。

 午後四時に訪れるのは、セールスぐらいだろうと無視して着替えを続ける。

 ピンポーン

 再びインターホンが押され、袖のボタンを止めながらモニターを覗き込んだ。そして、応答ボタンを押すより先に、玄関ドアを開けた。

「こんな時間から出社か? 仕事熱心なこった」

 長谷部課長だった。

「それとも、相川んとこか?」

 課長は俺を押し退けて靴を脱ぎ、スタスタと入って行く。俺は訳が分からないまま後に続いた。

「片付いてんな」

「やることなかったんで」

「健全な謹慎してたみたいだな」

「そんなことはどうでも――」

「――相川のこと、話しに来た」

 長谷部課長はそう言うと、ソファに腰を下ろし、足元に鞄を置いた。結び目に人差し指を差し込み、少しだけネクタイを緩める。

「コーヒーでいいぞ」

 俺はわざと聞こえるようにため息をつき、渋々コーヒーを淹れた。

「会社で話せることじゃないから、来たんだ」と、課長は切り出した。

「お前が謹慎になった二日後だったか、大河内から相川に呼出しがあった――」

 課長から、千尋が大河内亘の家に乗り込んだ話と、会話の録音を聞かされている間、俺はコーヒーに一口も口をつけなかったが、課長はとっとと飲み干していた。

「――約束通り、大河内専務は大河内亘と父親である社長に対して、役員会で不信任案を可決させた。後任の社長には三男の常務が、副社長には専務が決まった」

「長男は専務でしょう? どうして三男が?」

 そもそも、次男である昭一が社長に就いたことから不思議だが。

「大河内観光の古株の間では周知の事実のようだが、専務――勇氏は昭一氏と三男の浩二氏とは、異母兄弟らしい。要は、愛人の子、だ。本妻はそれを認めず、自分が産んだ息子に、一と二の名前を与えたが、勇氏の母親が亡くなり、やむを得ず養子として引き取ったんだと。で、大河内観光では、後継者指名は前社長である会長、つまり祖父さんが決める習わしで、愛人の子に継がせることを良しとしなかった会長が、勇氏ではなく昭一氏を指名した。だが、三兄弟の中で最も人望があり、最も商才に優れていた勇氏を手放すこともできず、専務という地位を与えられたそうだ」

 一気に話し終えた課長は、カップを持ち、空であるのを目で確認して、置いた。俺は二つのカップに、再び熱々のコーヒーを注いだ。

「不信任案は満場一致での可決だったらしい。穏やかそうに見えて、かなりのヤリ手だな」

「けど、それだけで俺がお咎めなしなんておかしくないですか?」
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