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2.OLC

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「ダメダメって――」

 覗き込むと、麻衣の目は完全に閉じていて、気持ち良さそうな寝息まで聞こえてきた。

「オチたか」

 あきらが麻衣のジャケットを、麻衣の背中に掛ける。

「麻衣にしては飲んでたもんね」

「結婚相談所……って、本気だと思う?」

 私はバーテンダーにジントニックを注文した。あきらは梅酒のお代わりを。

「まさか」

「だよねぇ」

「麻衣はさ、見た目は女女してるのに、性格は男前のところがあるじゃない。そういうのをわかってくれる男性ひとが合ってると思うんだけど、基本的に男を寄せ付けないんだから、選択肢はほぼゼロよね」

「貴重な選択肢が、七歳年下かぁ」

 私が知る限り、麻衣は年下と付き合ったことがない。意図的に避けているのかはわからないけれど。

 三十歳も超えれば、一歳や二歳の年の差なんてあってないようなものだろうが、七歳となると私でも敬遠する。

「そういえば、麻衣っていつから彼氏なし?」

 あきらに聞かれて、考えた。

「一年……は確かだよね」

「陸が結婚した時はいたよね?」

「そうだ、いたいた! 三十路にメイド服は痛すぎるって愚痴ってたの、その頃だよね」

 二年前。麻衣の誕生日少し前にOLCで集まった。陸の奥さんも一緒に。

 あの時の麻衣はメイド好きの何歳か年上の男と付き合っていて、ご主人様とメイドごっこをさせられなければ、文句ないのにと愚痴っていた。

 確か、あの後すぐに別れたはず。

「あの頃からじゃない? 麻衣が男を寄せ付けなくなったの」と、あきらが言った。

「うん……。あ! けど、メイド好きの後にも一人、付き合ってたよね? ひと月もしないで別れてたけど。変な性癖があったわけでもないのに、あっさり別れちゃって、不思議だったんだよね」

「そんな人、いた?」

「いたいた。あきらが来なかった時に聞いたんだったかな。麻衣がかなり落ち込んでたんだよね」

 仕事で行ったセミナーで意気投合した人で、麻衣と同じ行政書士だったはず。真面目で優しい人だったのに、麻衣から別れを告げたと聞いた。彼を傷つけたと、麻衣は自分を責めていた。

 あの後、麻衣に恋人はいない。

「へぇ……。どうして別れたんだろ」

「あの時、陸の奥さんが流産したことを聞いて、みんなショックだったんだよね。麻衣の話を聞いてあげる余裕もなくてさ」

 思い出した。

 彼女の妊娠がわかって、陸は急いで籍を入れた。奥さんを私たちに紹介してくれて、四か月後の集まりで流産を知らされた。

 あの時、私たちは陸に結婚祝いを送るつもりでいた。その相談で電話した時、麻衣が言った。

『今回はやめておこう?』

 理由を聞くと、『欲しいものを聞いてからの方がいいと思う』と言った。

 だから、流産を聞いて、結婚祝いを渡さなくて良かったと思った。

 麻衣は同級の陸と仲が良かったから、特にショックだったに違いない。

 それから恋人を作らないことと関係があるかは、わからないけれど。

「みんな、色々あるね……」と、あきらが呟いた。

「だね……」と、私も呟く。

 ブブッとスマホが振動した。

 ポップアップで表示しきれる、短いメッセージ。

『飲み過ぎるなよ』

 服の下の痕が、熱い。

 比呂の唇の感触を思い出す。

「ホント……、色々あるね」

 私はメッセージに返事をしなかった。
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