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7.元上司が恋人になりました

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 振り返ると、ドアの向こうに人影があった。

 もちろん透明なドアではないが、肌色と白が揺れ動いているからわかる。

「篠井さん?」

「……なぁ」

「はい」

「ちょっと確認しときたいんだけど」

「はい」

 そういえば、さっきも同じことを言いかけていた。

「お前は俺――っくしょい!」

 肝心なところで盛大なくしゃみ。

 私は迷わずドアを開けた。

 いつかの卓のように裸でくしゃみの情けない男でいてほしくない。

 まぁ、何人もの前で真っ裸で泣きじゃくっていたあの時とは状況がまるで違うのだが。

「夏依!?」

 いや、違わない。

 今度は私が真っ裸で、しかもドアを開けた瞬間冷気に撫でられてぞわぞわっと鳥肌が立つ。

「っくしょん!」

 驚く篠井さんの前で、今度は私がくしゃみ。

 まったく、どこまでも格好がつかない。

「早くあったまれ」

 篠井さんが私の肩を押して、バスルームに戻れと促す。

 私はその彼の腰に巻いたバスタオルを豪快に引き取ると、ドアの前に放った。

「うぉい!?」

 篠井さんは何事かと、暴かれた自分の下半身を覗き込む。

 当然、私も顎を引いて斜め下に視線を向けた。


 あら、思ったほどじゃない?


 いや、決して小さいとか並とか平凡とか言うつもりはない。

 何度も言うが、私もそう何人もの息子さんを目撃してきたわけではない。

 ただ、昨夜のあれそれを考えると、それほどでもなかったということだ。

「見すぎじゃね?」

「え?」

 顔を上げると、篠井さんの呆れ顔。

「見栄じゃないけどな? 今はちょっと寒くて委縮してるけど、本来は――」

「――っくしょん!」

「おい!? マジで風邪ひくから早く風呂に入れ」

 私は篠井さんの腕を掴んでバスルームに引き入れた。

「夏依!?」

「風邪ひかないように、一緒にあったまるだけです」

「でも――」

「――嫌ならいいですけど」

 喧嘩腰の物言いになってしまったことに、勝手に落ち込む。


 どうしてこう……私って可愛げがないの……。


 私は落ち込んでいる表情かおを見せないように、くるりと向きを変えて、改めてシャワーのコックを捻った。

 すぐにシャワーヘッドから、アツアツのお湯が勢いよく飛び出してきた。

 鏡越しに見られていると思うと、無意識に足を閉じ、腕で胸を隠す。

「夏依」

 背後から抱きしめられ、鼓動が早くなる。

 二人でシャワーに打たれているから、気づかれていないだろうか。

 お尻に、すくすくと成長なさった息子さんの気配を感じるが、温まるだけと言った手前、スルーしようと思う。

 私の腰具合的にも、今は息子さんと遊んであげられそうにない。


 あれ? これはもしかして俗に言う『生殺し』というやつでは?


 なるほど。

 これは申し訳ないことをした。

「気にすんな」

「え?」

「待てができないほどガキじゃない」


 確かに。これはとてもじゃないけれど――。


「子供とは思えない大きさ――」

「――おい。何の話をしている?」

「え?」

 しまった。また、声に出ていた。

「あ、入浴剤を忘れました」

「入浴剤?」

「はい。ちょっと取って――」

「――どこにある?」

「洗面台の下に――」

「――俺が取ってくるから浸かってろ」

 急に背中が寒くなる。

 篠井さんが入浴剤を取りに行ってくれている間に、手早くシャワーで汗を流して、バスタブに入る。直前に戻って来てしまった。

 腰を押さえながら片足を上げているという、なんとも恥ずかしい姿。

 けれど、篠井さんは表情を変えず、というかむしろ険しい表情になって、私の肩を掴んだ。

「滑らないように気をつけろ」
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