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7.元上司が恋人になりました

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 ピロピロピロッ、ピロピロピロッ、と遠くに聞こえる電子音が、徐々に大きくなっている気がして目を覚ました。

 篠井さんの着信音。

 昨夜遅くにも鳴っていた。

 そして、こうして休日の八時前にも鳴っている。

 よほど急用なのではと思い、怠い身体を捩って音の出所を探す。

 恐らく、部屋のドア前に放置されているコートのポケットに入っているのだろう。

「しの――」

 自分の口から出たとは思えないほどしゃがれた声に驚いた。

 喉の奥がかっさかさで、痛い。

 やむなく、私は篠井さんの肩を叩いた。

 彼は、片手を自身の頭の下に置いて枕代わりにしていて、反対の手を私のお腹に回して眠っている。

「しの……さん」

「ん~……」

 篠井さんは眉をひそめて、頭の下の手を伸ばすと、私の枕を引っ張った。

「ちょ――! まく――」

 枕を返せと訴えたいのだが、ケホケホとむせてしまった。

 それが聞こえたのか、篠井さんは腕を伸ばすと私の腰を抱き寄せた。


 これは、自分の腕を枕にしろということ……?


 正直、男の腕枕でキュンとするような可愛い女じゃない。

 というのも、卓の腕は細くて安定感がなく、とてもじゃないが眠れなかった。

 だからといって肩に頭をのせても、三分もしないで痛がられて終了。


 でもな、篠井さんもそうだって決めつけるのは良くないし……。


 とか考えている間も、篠井さんのスマホは鳴り続ける。

 随分しつこいな、と思うほどの長さだ。

 本当に、すごく大事な用事だったら出た方がいい。

 私は腕枕を保留にして、彼の頬を叩く。

「でんわ!」

 何とか声を絞り出す。

「なんだよ」

 篠井さんはウザそうにしかめっ面で目を開けたが、やはりちゃんと目が開いているのかわからない。

 大きく口を開けてあくびをした彼が、グイッと私を抱き寄せた。

 私の腰はそれに抗えるだけの力がなく、篠井さんの腕の中に倒れ込む。

 彼の無精ひげが触って肩がチクチクする。

「すまほなってます」

「ん? ああ」

「だいじなようじだったら――」

「――いい。香里だろ」

「……なんで?」

「謝りたいとか言ってたな」


 連絡とってたの?


「勘違いするなよ!」

 篠井さんが突然カッと目を見開いて飛び起きたものだから、私は彼の胸から放り出される格好になる。

 平常時であればなんてことないのだが、現在絶賛非平常時である。

 腕にも腰にも足にも力が入らない状態だ。

 バランスを崩して危うくベッドから落ちそうになった。

 セミダブルとはいえ、ガタイのいい篠井さんと一緒では私に与えられたスペースはかなり狭い。

「あ、悪い。大丈夫か?」

 篠井さんが私の肩を掴んで、自分に寄りかかるようにして引き寄せた。

「加減できなくて悪かったな」

 叱られた大型犬のように、シュンッと肩を落として私のおでこに頬擦りする。

 が、痛い。

 触れ合う肌も汗でべたついて気持ち悪い。

「おふろ……」

「ああ、そうだな。お湯溜めてくるな」

 篠井さんは手早く私の枕を元の位置に置いて、そっと私を横たわらせると、さっとベッドを出ていった。

 真っ裸で。

 昨夜は部屋が暗かったし、私はそれどころではなかったから、目視していない。

 しかも、昨夜は随分と成長というか進化というか臨戦態勢というか、とにかく普通の状態ではなかった。

 つまり、なにが言いたいかというと、戻ってくる時も真っ裸で正面からだろうかということ。

 目を閉じているべきか、驚いたふりしてしっかり見ておくべきか。

 いや、見たいわけではない。

 が、興味はある。


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