上 下
57 / 96
7.元上司が恋人になりました

しおりを挟む
 ぐっと圧迫され、ほぐされているとはいえ久しぶりでその感覚を忘れかけていた入口は、こじ開けられているかのように軋む。

 痛いはずの場所からじわじわとせり上がってくる痺れに交るわずかなくすぐったさに、思わず身を捩った。

「夏依?」

 逃げ腰だと思ったのか、彼の侵入が停止する。

「大丈夫か?」

 そっと私の頬を撫でるその困り顔は、鬼と呼ぶにはあまりに可愛くて、ついその手に頬擦りしてしまった。

「痛いか? 自分でも引くくらい興奮してるのがわかるんだけど」

 私に、私の身体に、興奮し、欲情してくれている。

 それが嬉しくてつい口元が緩んだ。

 それを見た篠井さんもまた、微笑む。

 細い目がさらに細くなる。

 大きく開いた足の先で彼の太ももを撫でると、それに反応したように勢いよく硬い熱が私の最奥を目指す。

「~~~っ!」

 ぐんっと突き上げられて、私の背が弓形になり、苦しさに呼吸を忘れた。

「ヤバ……い」

 篠井さんが私の胸に顔を埋め、苦しそうに呻く。

 両腕でしっかりと肩を抱かれ、ぐりぐりと腰を押し付けられては、身動き一つできない。

 彼の熱が自分の膣内なかで脈打つのを感じ、じわりと蜜が溢れた。

「痛いか?」

 押し広げられているのはわかるが、痛みではない。

 むしろ、じっと留まっているだけの時間に、気持ちが急く。

「うご……いて」

 遠慮なんてしないでほしい。

 篠井さんが気持ち良くなってくれたら、嬉しい。

 私だって絶対、気持ちいい。

「ゆっくり……するから――」

「――どうして?」

「~~~っ!」

 篠井さんが顔を上げて、私をじっと見下ろす。

「激しくしてほしいってことか?」

「――っ! そうじゃ――」

 私を気遣って我慢してほしくなかっただけ。

 決して、めちゃくちゃに激しく揺さぶられたいなんて思ったわけじゃない。

 けれど、篠井さんは企画の予算をもぎ取った時のように勝ち誇った笑みで、私にキスをした。

「安心しろ。すぐに終わりそうだからな?」


 どうして疑問形?


 ずるりと下腹部を圧迫していた熱が引き抜かれ、あれ? と思うより早くぐぐっとまた奥まで挿し込まれる。

「は……っあ」

 まるで違う場所を塞がれているのに、それがまるで気道かのように息が詰まる。

 いちいち奥の奥まで挿し込まれ、読んで字の如く息つく間がない。

「ま――」

「――夏依っ!」

 強く抱きしめられたまま、耳元で縋るように名前を呼ばれ、激しく腰を打ちつけられる。

 息をするのも喘ぐのもままならないほど、私はただ彼にしがみつくので精一杯。

 激しさを増し、それに伴って私の腰の位置が高くなり、足に力が入らなくなっていく。

 腰を打ちつけられる弾みで膝が曲がるものの、それだけだ。

 私の異変に気付いてくれたのか、篠井さんの動きがピタリと止まった。

 ホッとしてゆっくりと呼吸を再開するも、彼の唇にそれを阻まれてしまう。

「んむっ――」

 私の肩を抱いていた彼の手が解かれ、少しだけゆっくり呼吸する時間が欲しいと訴えようと、篠井さんの肩を押してみる。

 が、びくともしない。

 それどころか、彼の手が私の膝裏に副えられ、強制的に持ち上げられた。

「悪い。ちょっと激しくする」


 え!? これ以上?!


 既に疲労困憊だ。

 だが、さすが鬼篠。

 仕事は迅速かつ正確に、の手本となるべき私の元上司は、まさに迅速に疑う余地のない正確さで、私のイイトコロを激しく刺激し始めた。

 そうなると、もう止められない。

 止めるすべもない。

 私は意味のある言葉を発することはおろか、人間の言語とも思えぬ、そう獣の唸り声のように喉を鳴らすことしかできなくなった。

 女は、本当に最高に限界まで感じると、声帯に支障をきたすと知った夜だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

旦那様はとても一途です。

りつ
恋愛
 私ではなくて、他のご令嬢にね。 ※「小説家になろう」にも掲載しています

満月を抱いて、満月の夜に抱かれて

深冬 芽以
恋愛
 全てを知る女、何も知らない男。  満月の夜に出会った二人は、出会ってはいけない二人だった。 「満月の夜に、待ってる」  行ってはいけない。  触れてはいけない。  愛しては、いけない――。  けれど、月を見上げて思うのはあなたのことばかり。  私を待ってる?  私を忘れた?  私を、憎んでる――?

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

愛されない女

詩織
恋愛
私から付き合ってと言って付き合いはじめた2人。それをいいことに彼は好き放題。やっぱり愛されてないんだなと…

なにひとつ、まちがっていない。

いぬい たすく
恋愛
若くして王となるレジナルドは従妹でもある公爵令嬢エレノーラとの婚約を解消した。 それにかわる恋人との結婚に胸を躍らせる彼には見えなかった。 ――なにもかもを間違えた。 そう後悔する自分の将来の姿が。 Q この世界の、この国の技術レベルってどのくらい?政治体制はどんな感じなの? A 作者もそこまで考えていません。  どうぞ頭のネジを二三本緩めてからお読みください。

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

犠牲の恋

詩織
恋愛
私を大事にすると言ってくれた人は…、ずっと信じて待ってたのに… しかも私は悪女と噂されるように…

処理中です...