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6.嫉妬のあまり……

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「ん……」

 甘い鼻にかかった声に、うなじがくすぐったい。

 ぴたりと重なった唇のほんのわずかな隙間から漏れる熱い息に、耳たぶが熱を帯びる。

 ジャケットの腰の辺りをきゅっと握られ、ガチガチのカラダの尖端を撫で回されたような刺激が走る。

 要するに、夏依の何もかもが俺を興奮させる。

 こうなると、テンプレなんかくそくらえだ。

 玄関先で靴も脱がずに、服を脱がせようとシャツのボタンを少し乱暴に外し始めると、夏依の手がそれを制止した。

「ここ……じゃ……」

 そりゃ、そうだ。

 そうだが、早く欲しくて堪らない。

「ベッドに――」

 言いかけて気づく。

 どっちの?

 というか、俺はマットレスを買っただけでベッドではない。しかもシングルだ。


 くそっ、格好つかねぇな。


 だが、もう後には引けない。

 俺はバタバタと靴を脱ぐと、夏依の腰を抱いたまま部屋に上がった。

 夏依も慌てて靴を脱ぎ、俺にしがみつくようにして歩き出す。

 二人とも廊下に転がったバッグも、ひっくり返った靴もそっちのけで、焦りも隠さずに寝室を目指した。

 夏依の寝室に、初めて入った。

 が、ゆっくり部屋を見る余裕も、暗がりで目を凝らす気もない。というか、電気のスイッチを探して壁を叩くと、夏依に止められた。

「流石に電気は……」

 なるほど。俺の上で腰を振る姿にスポットライトは当てられたくない、と。

 俺は手探りで彼女のコートを脱がしながら、身体を屈めてキスをする。

 目が暗闇に慣れていなく、唇を逸れて鼻先に食いつく。

 わずかに下方修正するも、今度は顎。

 おそらく夏依は上方修正したのだろう。

「ふっ……」と夏依の吐息がまつ毛に吹きかけられた。

「電気つけたい……」

 あまりに格好つかなすぎて、思わず本音を吐露してしまう。

 すると、彼女の手が俺の頬に触れ、指先が唇に押し付けられた。

「見つけた」

 すぐ間近で囁き声がして、唇から指が離れ、代わりにもっと柔らかくて弾力があって、温かくて少し湿り気のあるものが触れた。

 即座に唇を開くと、舌先で彼女の唇をこじ開ける。

「ん……」

 夢中でキスをしながら、シャツのボタンをひとつずつ外してゆく。

 気持ちは急くのに、彼女の素肌を暴いていく時間が長く感じて仕方がない。

 このひと月、よく我慢できたものだと自分に感心しながら、最後のボタンを外し終えると、その手をシャツの内側に滑り込ませ、インナーをスカートから引き出す。

 更にスカートのファスナーを探り当てて、小さなつまみを握って下ろした。

 が、下りない。

 以前から思っていたが、女性の服はセックスの時に男性をイラつかせるデザインが多い。

 ボタンやファスナーが小さかったり、隠れていたり、更に小さなフックがついていたり。

 ボタンがあると思ったらフェイクだったり、頭から被るタイプと思いきや脇にファスナーがあったり。

 そして、俺が今格闘しているのは、脇にファスナーがあるロングスカート。

 とにかくつまみが小さい上に、なかなか下ろせないし、恐らくフックがついている。

 腰のファスナーなら両手を使えるが、脇となると片手で対処しなければならない。

 しかも! 左手で、だ。

 これは、俺への試練なのか、それとも拒否られているのか。


 いや、須賀谷対策だったのでは!?


 須賀谷がソノ気になって暴走しても、簡単に脱がせられない構造のスカートを選んだと言うなら、評価したい。


 いや、スカートなんだから脱がせなくても……。


 そもそも、自分に気がある男と食事に行くのに普段はあまり穿かないスカートを選んだことはいただけない。


 が、脱がせているのは俺なわけで……。


 キスをしながらファスナーと格闘し、さらにこんなことを考えている自分の余裕さに驚くが、実際にはファスナーは下ろせないし、キスも漫ろな状態だ。


 よし! 諦めよう。

 実際には数秒だが数十分にも感じたファスナーとの闘いに降参し、俺は長いスカートの裾を持ち上げた。


 ん?


「あの、これ、スカートじゃないんです」

「へ?」

「ごめんなさい。外しにくかったですよね、ファスナー。ちょっと歪んでてコツがいるんです」

 夏依が自ら腰に手を回す。

 つくづく格好がつかない。

「あ」

「ん?」

 彼女の声に、視界不良ではあるが様子を窺う。

「お風呂……に……」

「一緒に――」

 しまった。

 夏依は、風呂は一人で入りたいんだ。

 気まずい空気が流れる。


 紳士的に夏依が風呂に入るのを待つか?

 いや、どうせ汗をかくんだから風呂は後が望ましい。

 いやいや、それは男の考えで、女は先に入りたがるもんだ。

 けど、この状況でマテか? デキるのか?

 マテが? セックスが?

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