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6.嫉妬のあまり……

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「それが、羽崎?」

「みたいだな」

「いきなり結婚? そいつ、いくつバツ作る気だよ」

「それ、おなじことあきらも言ってた」

 谷が笑う。

 が、笑い事じゃない。

 自分の部下が無謀な結婚計画を立てて遂行しようとしているのなら、止めてやるべきだ。

 俺なら放っておくが。

「羽崎さんが須賀谷になびくことはないだろうけど、万が一ってこともあるし、須賀谷が強引にならないとも限らないから、気をつけろよ」

 谷に言われて少し考え、呟いた。

「なんで俺に言うんだよ」

「他に誰に言うんだよ」

 テーブルの上で、スマホがヴヴヴッと鳴りだし、そういえばさっき羽崎にメッセージを送ったままになっていたと思い出した。

 が、今スマホを震わせているのは非通知からの着信。


 しつこい……。


「出ないのか?」

 谷がスマホを覗き込む。

「非通知?」

「元カノだ」

「あの!?」

「あの」

「今更なんだよ」

「謝りたいって」

「はぁ!?」

「フラれた腹いせにヤリまくってごめんなさい、とか?」

「いや、浮気して、だろ?」

「浮気相手に捨てられたとか?」

「なんにしても、あんなん見せといてよく連絡してこれるな」

 二人には、引っ越しの時に香里の浮気が原因で別れた事しか言っていない。

 あの、衝撃的なブツを見て、もはや別れた原因などどうでもいいような状況だったし。

 それでも、思うのだ。

 香里の言動がおかしいと。

「なんか……色々と想像以上でわけわかんねぇ」

「篠井。俺たち男が女のこと、わかるはずないだろ? 女が男をわからないのも同じで」

 柳田がやけに悟り顔で言った。

 谷も頷く。

「わからないからこそ、わかろうとする努力が必要なんだよ」

「なに、先輩面して言ってんだよ」

「先輩だも~ん」

「だも~ん、じゃねえ! 俺だって――」

 また、スマホが唸った。

「しつこすぎだろ」

 谷が呟く。

 が、違う。

 羽崎からのメッセージだった。

〈ちょっとこま〉

「こま?」

 意味がわからなくて、思わず声に出した。

「こま?」と谷と柳田も復唱する。

「いや、羽崎からのメッセージで、ちょっとこま、って」

「ちょっとこまかいのなくて」

「ちょっとこまいが食べたい」

 二人が面白がって文字遊びをしだす。

「こま……こまいぬ!」


 ちょっとこまいぬ、ってなんだよ。


「小松菜買って来て!」


 小松菜ってどんなんだよ。


「こま……こま……」

「お前ら、面白がり過ぎだろ。羽崎がそんな――」

 そこで、気が付いた。

「――ちょっとこまってて」

「それだ!」

 谷が俺を指さす。

「電話してみろよ」

 柳田が真顔で言った。

 俺は発着信履歴の五番目にある羽崎の番号をタップした。

『呼出中』の文字が表示される。がそれは、すぐに消えた。

『もしもし、お兄ちゃん?』


 お兄ちゃん!?


「羽崎、どうし――」

『――今、会社の人と一緒にいるの。これから帰る』


 会社の人?


 羽崎の背後は随分とざわざわしている。

 外、いや駅にいるのか。

『あ、ホント? じゃあ、駅で待ってるね』

『夏依さ――。俺――おく――から――』


 また、あの男――!?


『電車来たから切るね』

 羽崎の方から電話を切った。

 お兄ちゃん、相手に一方的に話して。

「羽崎さん、なんだって?」

 俺は勢いよく立ち上がると、財布から五千円札を出してテーブルに叩きつけるように置いた。

「また、あの男だ!」

「男? 須賀谷か?」

「帰るわ! またな」

 俺はジャケットと鞄を引っ掴むと部屋を飛び出した。


 くそっ! 先に着けるか!?


 俺はタクシーを捉まえようか迷って、駅まで走った。

 きっと電車の方が早い。

 走って走って、息を切らしてタイミングよくホームにやって来た電車に乗り込み、ドアの真ん前で呼吸を整える。

 客の乗り降りに邪魔だとはわかっていたが、俺はドアのそばを離れず、マンションの最寄り駅に着くなりまた走り出した。


 駅で待ってるって言ってたけど――。

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