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6.嫉妬のあまり……
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しおりを挟む『――が来まし――、夏依さん』
男!? と思った瞬間、電話が切れた。
別に、羽崎が男といたって不思議じゃない。
俺はたった今言われた通り、ちくわやこんにゃく、水餃子なんかを大根入りの鍋に入れて、火をかけた。
あ、玉子はないんだな……。
ゆで卵は好きじゃないという人もいる。
羽崎もそうかもしれない。
あるいは、忘れただけかも。
どちらにしても、いい。
俺は玉子が嫌いじゃないが、小さな鍋に水と玉子を入れて火にかけるという、たったそれだけのことをなぜかやる気になれない。
弱火にして、着替えに部屋に行く。
帰りが一緒になった会社の奴かもしれない。
ジャケットを脱いでハンガーに掛ける。
元カレか!?
敬語だったし『さん』付けしていたから違うだろう。
名前呼びの時点で同僚じゃないよな。
羽崎を名前で呼ぶ男が、元カレ以外にいるのだろうか。
声、若かったな。
駅にいるらしく周囲はざわついていたが、聞こえた声は若く元気が良さげだった。
つーか、あんなにはっきり聞こえたってことは、かなり距離が近いんじゃ……。
スウェットに着替えて、ワイシャツと靴下を持って洗面所に行く。
洗濯は各自でと決めたのだが、いつからか下着以外は一緒に洗うようになっていた。
俺が間違えて洗濯機に入れてしまったのが始まりだったが、羽崎は嫌な顔をしなかった。
洗面所の鏡に映る自分を見て、羽崎と一緒に働いていた頃よりも随分とくたびれた気がすると、少し落ち込んだ。
はぁっと深いため息をついてから、顔を洗う。
台所に戻っておでんの様子をうかがった。
火力を中にして、ぼうっと鍋の前に立つ。
カウンターに置いたスマホが鳴り、何を期待してか急いで手に取った。
非通知の着信。
昼間もあった。
仕事中で出られなかったが。
「はい」
『……光希』
香里!?
聞き取りにくいが、間違いない。
「なんの用だ」
『話が――謝りたいの。会って』
「結構だ」
『お願いよ。私――』
「――切るぞ」
俺は、女に優しい男じゃない。
だが、ここまで冷たい男でもない。
香里相手とはいえ、羽崎が聞いたら幻滅されるだろうか。
いや、今更か……。
あんな裏切られ方をしたとはいえ、翌日には違う女の家に転がり込んだ俺に、今更幻滅もしないだろう。
そう思えば、いくら元上司とはいえ、婚約者に裏切られた翌日に男を泊める羽崎も大概だが。
信頼関係にあると言えば聞こえはいいが、異性として認識されていないのはちょっと凹む。
だが、羽崎との心地良い暮らしを壊してまで、意識させようとは思わない。
とか言って、俺ががっつり意識してんのはどうなのよ……。
経理部だった羽崎をスカウトした時は誓って、健全に若いのにガッツがある女だと見込んでだった。
ある時、彼女の泣き顔を見て、可愛いと思ったのも確かだが、だからって鬼と呼ばれる俺がコロッと態度を変えるわけにもいかず、可愛い部下として接した。
そういや、羽崎はなんで経理に戻ったんだ……?
俺が退職する時、後任に羽崎の優秀さは伝えた。
後任の補佐に着かなくても、彼女自身一人前に企画を打ち出せる能力と技術は身についていた。
勿体ねぇ、の。
鍋の蓋がカタカタ揺れ出して、俺は火を弱めて蓋を取った。
軽く混ぜて、また蓋をする。
かまぼこたちが膨張しているところを見ると、十分火は通ったようだ。
まだか……?
俺は火を止め、スマホの通話履歴を見た。
電話したのはニ十分前。
そろそろ着くだろう。
適当な皿をテーブルに並べながら、待つ。
と、ふと思った。
電話の男と一緒なら?
見ず知らずの男と羽崎が向かい合って食事している姿を想像し、気道が狭くなるような苦しさを覚えた。
結婚したいって……言ってたもんな。
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