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5.交際を申し込まれました

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「誘ったのは俺ですから」

 なんてスマートな言動。

「ありがとうございます」

 私は素直にお礼を言って、アイスコーヒーのカップを受け取った。

 席に行き、彼と向かい合って座る。

「来てくれてありがとうございます」

「え? いえ」

 すっぽかされると思っていたのだろうか。

「さっきは、仕事中に突然すみませんでした。ただ食事に誘うよりその理由を伝えるべきだと思って」

 視界の端で道ゆく人が気になるが、悟られないように須賀谷さんの眉間を見つめる。

「改めて、俺と付き合ってもらえませんか。結婚を前提に」

「けっ――こん……ですか」

 変な間ができてしまった。

「はい。結婚する気はないけど女は欲しい、なんて軽い気持ちで付き合う気はないんです。女性の貴重な時間を預けてもらうんですから、将来を見据えて真剣なお付き合いをしたいんです」

 ストレートな告白の上にプロポーズまでされてしまった。


 ん? 告白?


「あの、そもそもどうして私なんですか? 年齢的にも不釣り合いな気がしますし、お話ししたことも業務に関してのみですよね」


「年齢なんて気にしません。俺の親も母親の方が七歳上ですし。直接話をしたことはあまりなくても、羽崎さんの雰囲気とか話し方とか、そういうのがすごくいいなって思ったんです」

 須賀谷さんの顔がぱぁっと華やいで、ただでさえ若いのに、さらに若く、というか学生でも通用するんじゃないかと思うくらい幼く見えた。


 眩しい……っ!


「それに、羽崎さんくらいの年の女性は浮ついた恋愛には興味ないですよね? 結婚、したいと思いませんか?」

 その問いで、なぜか昨夜の篠井さんの問いを思い出した。

『羽崎はなんで結婚したいんだ?』

 篠井さんは『結婚したい理由』を聞いた。

 須賀谷さんは『結婚したいか』を聞いた。

 このふたつはどう違うのだろう。

 同じだと思ってもいいかもしれない。

 けれど私には、なぜか全く違う問いに聞こえた。

「いずれは……とは思っています」

 私はありきたりな返事をした。

 今の本心でもある。

「ですよね! なら、相手が俺でもいいか見定めてください」


 見定める……。


 若くてイケメンの須賀谷さんを見定めるとは、なんだか自分が何様にかなったようだ。

「俺、羽崎さんに認められるように頑張りますから!」

 彼は、自分との食事がおでんに負けたと知ったら、さぞショックを受けるだろう。

 いや、キレるかもしれない。

 おばさんがおでんと俺を天秤にかけやがった、と。


 いや、そんな人じゃないか。


 だが、それも仕方がない。

 というか、敢えて伝えてキレてくれたら、頑張ったりしなくなるだろう。


 いや、でも、私は結婚に向けてパートナーを見つけなきゃいけないんだから……。


「俺にチャンスをください!」

 周囲から見れば異様な光景だ。

 明らかに年上の地味な女と、若くて爽やかなイケメン。

 イケメンが地味女に告白している。

 私は周囲の視線にいたたまれず、ぎこちない笑みを見せた。

「お気持ちはわかりました」

「ありがとうございます!」

 なにが、だろう。

 わからないけれど、とにかく早く店を出たい。

「いきなり恋人というのはハードルが高いので、まずはお互いを――」

「――もちろんです。あ、まずは、連絡先を教えてもらえませんか? お願いします」

「あ、はい」

 断りにくい状況だ。

 私はスマホを取り出すと、自分の番号を表示して彼に見せた。

 彼は素早く番号をタップし、私のスマホが彼からの着信を告げる。

「アプリの方も登録しちゃいますね」

 慣れた手つきでメッセージアプリで私の番号を検索し、あっという間に私のアプリに登録のお伺いが届く。

 私は彼をリストに追加する。

 するとすぐに、彼からスタンプが届いた。

 よろしくお願いします、と頭を下げているペンギン。

「いつでも連絡してください。あ、俺も連絡しますけど、無理に返事しなくていいです。勝手に送るだけなので、ホントに」

 なんだろう。

 いつかこんな会話をした気がする。

 本当に返事をなおざりにしていたら、どうして返事をくれないのかと言われた。

 そんなことがよぎったが、目の前の彼はそれを言った男とは別人だ。

 一緒にしては失礼。

 私はアイスコーヒーを勢いよく飲み、ふぅっとひと息ついて「じゃあ、今日は――」と言いながら立ち上がった。

「送ります。〇〇線ですよね?」

「え?」
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