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5.交際を申し込まれました

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「あ、すいません。決して、バカにしたわけでは――」

「――わかってる。俺も言ってて変だなと思った」

 口から出した串を皿に置き、急ごしらえで作った大根の味噌汁をすする篠井さんを見て、普通にいい旦那さんになる人だろうにと思った。

「日曜大工とかしてそう」

「ん?」

 聞き返されて、また思ったことを声に出していたことに気が付いた。

「いえ。前にもベタベタしたり束縛したりしない関係がいいとか言ってましたけど、やっぱりこう、ドライ? な関係を望んでいるんですか?」

「ああ」

 違和感をもった。

 彼の言うドライな関係というものが、私の想像するものと違うからだろうか。

 卓の襲撃に遭った時、篠井さんは二度とも私を守ってくれたし、抱きしめて慰めてくれたりもした。

 一緒に暮らして、晩ご飯はいるかを聞いてもウザがらないし、休日の買い物にも付き合ってくれる。

 例えば私が彼の恋人だったとして、それはドライな関係だろうか?

「ドライ……とは?」

 今度は聞き返される前に、頭の中の疑問を口にしてしまったことに気づいた。が、篠井さんは普通に自分への問いだと思ったようだ。

「俺の両親さ、めちゃくちゃ仲いーんだよ。そりゃあ、もう、見てるこっちが恥ずかしいくらい」

「はぁ」

「同時に、主に母親がなんだけど、すげー疑り深いっつーか、心配性でさ? 父親が飲み会で遅くなるっつーと浮気じゃないかって帰って来るまでそわそわしてて」

「へぇ」

 私はまるで想像できない篠井さんのご両親の関係を、口の中にへばりつく餅ベーコンと格闘しながら聞く。

「俺はああいうの嫌だなと、子供ながらに思っててさ」

「ふむ」

 餅が意外と柔らかく、口内の上に張り付いてしまい、舌先を駆使して剥がそうとする。

「まぁ、父親は? 嫌がってなかったみたいだからいーんだけど、俺はウザいなと思うわけ」

 ようやく剥がれた餅を、梅サワーで流し込む。

「それで、ドライな関係?」

「まぁ、ドライな関係っつーのがどんなんかは俺自身よくわかってねーんだけど。あ、母親がよく言ってたな。お父さんなしには生きていけない、って。子供の頃はよくわかってなかったけど、大人になった今となると、愛情の問題なのか、金銭面の問題なのか……」

「金銭面?」

「専業主婦だったからな」

「ああ」

「ま、今も仲良くやってるみたいだし? どっちでもいーんだけどさ?」

 ふと、先週末、買い物途中で見かけた親子を思い出した。

 両親の気持ちというか考え方が少しズレていて、妻は苛立ちながらも子供と向き合い、夫は妻の苛立ちに気づいて気遣うつもりが方向がズレていて。

 それでも、同じ道を歩く。

 歩幅や速さは違っても、時々振り返って立ち止まりながら、同じ場所を目指す。同じ場所に帰る。

 きっと、どこの家庭でもあること。

 大なり小なり不満を抱えながらも、一緒に暮らしていく。

 そんなものだと諦めたり、納得したりしながら。

 それが、家族なのだろう。

「それが……一番ですよ」

「ん?」

「何があっても結局、ずっと一緒にいるのが……家族ですよ」

「?」

 私はふぅっと小さく息を吐き、篠井さんを見た。

 彼の結婚観を聞いておきながら、私は答えないのはフェアじゃない。

「私と兄は、祖母に育てられました」

 卓にも、話したことがなかった。

 正確には話そうとしたことがあったが、やめた。

 なぜだか、彼に話すことに意味はないと思ったから。
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