21 / 120
3.元上司がルームメイトになりました
2
しおりを挟む
事故物件といい、元カノの鬼電、鬼メールといい、篠井さんがこんなにビビりだとは、本当に意外だ。
仕事では自分が事故処理したり、鬼になったりしてたのに。
「予備の布団はあるか?」
「はい」
「よし。問題ないな」
なにが? と聞こうとして、やめた。
聞かなくてもわかる。
彼の口癖のようなものだ。
仕事でも、ゴリ押しムリ押しする時、よく言っていた。
みんな『え、問題だらけでは?』と思っても、それを口に出させぬ気迫で言い切られると、なんとなく『そうか、大丈夫か』と思えてしまう。
まぁ、実際になんとかしてきたんだけど……。
ただ、今回に関しては仕事とは違う。
そして、相手は私。
唯一『どの辺が問題ないのでしょう』と聞き返せた、篠井課長の腹心の部下である私にそのフレーズは通用しない。
おそらく、彼も口にしてからそのことを思い出したらしく、ハッとして私から顔を背けた。
「あれだ! 着替えてくるかな」
「はい?」
「昨日から同じ格好だ。いい加減臭いだろ」
「いいえ?」
「シャワーを借りるぞ」
篠井さんが立ちあがる。
反射的に私も立ち上がる。
ここで押し切られてなるものか!
「待ってください! 私はまだ――」
「――家賃は全額俺が払う」
「へっ!?」
全額!?
「光熱費は折半!」
「はっ!?」
折半!
「食事も掃除も洗濯も自分でやる」
ほう。
「元カレが押しかけてきたら守ってやる」
「おっぱい目当てでは?」
「おま――」
「――すみません、今のはナシで」
流石にふざけすぎたなと反省し、即時撤回する。
「無理だ。俺は傷ついた。すごぉく傷ついた!」
篠井さんが泣いてますと言わんばかりに、両手で顔を覆う。
「ショック過ぎて、もうどこにも行けない!」
「子供ですか! 鬼の篠井が、部下のうっかり発言に鬼ギレすることはあっても、傷つくなんて――」
「――今は仕事中じゃないし、お前はもう部下じゃないだろ。可愛い女の子にエロじじい呼ばわりされたら、普通に傷つく! まだ開き直れるほど年くってない!」
「それならなおさら! 可愛い部下とひとつ屋根の下、間違いがあったらどうするんですか!」
「だから部下じゃないって言ってるだろ。それに間違いってなんだよ。二人とも気兼ねする相手はいないし、なんの問題もないだろ」
「どうして問題が起きる前提なんですか!」
「お前が言い出したんだろ」
「おっぱい発言したのは鬼篠でしょ!」
「腕におっぱい押し付けてきたのはお前だろ。つか、鬼篠言うな! 陰でそう呼ばれてるって知って、マジ泣きそうだったんだからな!」
「……そうなんですか!?」
いい年した大人がふたり、土曜の夜に大騒ぎ。
興奮しすぎだ。
無駄に大声を張り上げて、疲れた。
私はふぅっと息を吐いて、その場に座った。
そして、ようやく気が付いた。
「可愛い女? ……の子?」
「?」
「今、私のこと、可愛い女の子って言いました?」
篠井さんが右斜め上を見上げる。
「イッテマセン」
「人が嘘を吐くとき、右上を見るって本当だったんですね」
「……お前から見たら左だろ」
「なんですか、その屁理屈」
今、ようやく気が付いたが、篠井さんも酔っているのかもしれない。
いや、私の知る鬼篠はビールの一缶や二缶で顔色を変える人間ではない。
だが、顔が赤い。
なんだか目も虚ろ。
「篠井さん、酔ってます」
「酔ってねーし!」
酔ってんな……。
仕事では自分が事故処理したり、鬼になったりしてたのに。
「予備の布団はあるか?」
「はい」
「よし。問題ないな」
なにが? と聞こうとして、やめた。
聞かなくてもわかる。
彼の口癖のようなものだ。
仕事でも、ゴリ押しムリ押しする時、よく言っていた。
みんな『え、問題だらけでは?』と思っても、それを口に出させぬ気迫で言い切られると、なんとなく『そうか、大丈夫か』と思えてしまう。
まぁ、実際になんとかしてきたんだけど……。
ただ、今回に関しては仕事とは違う。
そして、相手は私。
唯一『どの辺が問題ないのでしょう』と聞き返せた、篠井課長の腹心の部下である私にそのフレーズは通用しない。
おそらく、彼も口にしてからそのことを思い出したらしく、ハッとして私から顔を背けた。
「あれだ! 着替えてくるかな」
「はい?」
「昨日から同じ格好だ。いい加減臭いだろ」
「いいえ?」
「シャワーを借りるぞ」
篠井さんが立ちあがる。
反射的に私も立ち上がる。
ここで押し切られてなるものか!
「待ってください! 私はまだ――」
「――家賃は全額俺が払う」
「へっ!?」
全額!?
「光熱費は折半!」
「はっ!?」
折半!
「食事も掃除も洗濯も自分でやる」
ほう。
「元カレが押しかけてきたら守ってやる」
「おっぱい目当てでは?」
「おま――」
「――すみません、今のはナシで」
流石にふざけすぎたなと反省し、即時撤回する。
「無理だ。俺は傷ついた。すごぉく傷ついた!」
篠井さんが泣いてますと言わんばかりに、両手で顔を覆う。
「ショック過ぎて、もうどこにも行けない!」
「子供ですか! 鬼の篠井が、部下のうっかり発言に鬼ギレすることはあっても、傷つくなんて――」
「――今は仕事中じゃないし、お前はもう部下じゃないだろ。可愛い女の子にエロじじい呼ばわりされたら、普通に傷つく! まだ開き直れるほど年くってない!」
「それならなおさら! 可愛い部下とひとつ屋根の下、間違いがあったらどうするんですか!」
「だから部下じゃないって言ってるだろ。それに間違いってなんだよ。二人とも気兼ねする相手はいないし、なんの問題もないだろ」
「どうして問題が起きる前提なんですか!」
「お前が言い出したんだろ」
「おっぱい発言したのは鬼篠でしょ!」
「腕におっぱい押し付けてきたのはお前だろ。つか、鬼篠言うな! 陰でそう呼ばれてるって知って、マジ泣きそうだったんだからな!」
「……そうなんですか!?」
いい年した大人がふたり、土曜の夜に大騒ぎ。
興奮しすぎだ。
無駄に大声を張り上げて、疲れた。
私はふぅっと息を吐いて、その場に座った。
そして、ようやく気が付いた。
「可愛い女? ……の子?」
「?」
「今、私のこと、可愛い女の子って言いました?」
篠井さんが右斜め上を見上げる。
「イッテマセン」
「人が嘘を吐くとき、右上を見るって本当だったんですね」
「……お前から見たら左だろ」
「なんですか、その屁理屈」
今、ようやく気が付いたが、篠井さんも酔っているのかもしれない。
いや、私の知る鬼篠はビールの一缶や二缶で顔色を変える人間ではない。
だが、顔が赤い。
なんだか目も虚ろ。
「篠井さん、酔ってます」
「酔ってねーし!」
酔ってんな……。
11
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。

お姉さまは最愛の人と結ばれない。
りつ
恋愛
――なぜならわたしが奪うから。
正妻を追い出して伯爵家の後妻になったのがクロエの母である。愛人の娘という立場で生まれてきた自分。伯爵家の他の兄弟たちに疎まれ、毎日泣いていたクロエに手を差し伸べたのが姉のエリーヌである。彼女だけは他の人間と違ってクロエに優しくしてくれる。だからクロエは姉のために必死にいい子になろうと努力した。姉に婚約者ができた時も、心から上手くいくよう願った。けれど彼はクロエのことが好きだと言い出して――

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる