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2.サレた者同士で……
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「あれ? そういえば――」
篠井さんのマンションを出てしばらくは前の車について走っていたのだが、五分ほど走って赤信号で停まり、気が付いた。
「――ここ、どこ?」
篠井さんを見る。
背中は無反応で、肩がゆっくりと規則正しく上下に動く。
もう寝たの!?
忘れていたが、篠井さんは寝つきが良い。
外出中にどうしても眠くなったと車を停めたら、三分もしないで寝息を立てていた。
いや、それにしたって、アレを目撃した後だけど……?
とはいえ、私も恋人の浮気現場に遭遇した後にがっつり肉を食べて、寝てしまった。
仕方がない。
私は肌身離さずにいたスマホのマップに目的地を入力した。
カーナビは使い勝手がわからないから、使わない。
私はスマホを、恐らくスマホスタンドと思われるものにはめた。が、はまらない。
スタンドを指で動かしてみると、簡単に幅が広がった。
今度は私のスマホがピタリと収まる。
私はスマホのナビを見ながら車を走らせた。
到着までに数回、ナビが静かな車内に指示を響かせたが、篠井さんは起きなかった。
正直、途中で起きていれば行き先は変わったろう。
だが、起きなかった。
寝つきがいい上に寝起きがよろしくない。
だが、不思議なことに、起きると言った時間にはちゃんと起きる。
ただ、不機嫌だが。
今日は、いやもう昨日だが、散々だった。
私も、篠井さんも。
こんな日でなきゃ、私が篠井さんをお持ち帰りするなんてこと、絶対にあり得ない。
いや、お持ち帰りじゃないし。
仕方がない。
篠井さんが眠っている私を自分のマンションに連れ帰ったのと同じだ。
もう、早く布団で眠りたい。
それだけ。
車を走らせること、ニ十分。
家を出てから二十四時間も経っていないのに、二十四日ぶりではと思うほど感慨深く、ホッとした。
まだ一度も利用したことのない駐車場に車を停めて、シートベルトを外す。
首を左右に動かしてほぐした。
「篠井さん」
起きないとわかっているから、反応がないかの様子など見ずに、彼の背中に平手打ちした。
「起きろ!」
「んがっ!?」
漫画のような鼻音を立てて、篠井さんが身じろいだ。
そこに、もう一発お見舞いする。
「起きろ!」
ベチンッと小気味よい音が響く。掌が痛い。
「着きましたよ。早く寝たいんで、私は先に行きますから」
「待て! 俺はまだイッてない!」
「はぁ!? どんな寝言ですか?!」
今度は背中にグーパンをお見舞いする。
「ってぇ」
ようやく、篠井さんが身体を起こした。
「お前、もうちょっと優しく起こせないのかよ!? いつもいつも背中――」
「――叩かれたくていつも背中向けてたんじゃないですか?」
「そんなわけあるか! 俺は左向いて寝るのが楽なんだよ」
「そんなこと、知りませんよ」
私は運転席から降りると、後部座席の自分のバッグを持った。
篠井さんもキャリーバッグを持って降りる。
「なあ、ここどこだ?」
「私のマンションです」
「はぁ?」
「静かにしてください」
「あ、わり――じゃなくて! なんでお前のマンション!?」
後ろを歩いていた篠井さんが速足で私の横に立つ。
「私の家ですから」
「それはわかるけど、なんで俺まで?」
「寝ちゃうからじゃないですか!」
立ち止まって言うと、篠井さんが仰け反った。
「あ、うん。そっか」
「大体、こんな時間にどこに行けるんですか。泊めてくれる友達もいないでしょ? 朝ご飯…起きたら昼? とにかく、美味しいものご馳走してくれたら泊めてあげます。床に布団敷くだけですけど。あ、ホテルに行くならどうぞ。そのうちゆっくり後日談を語らいましょう」
自分でも驚くほど早口で捲し立てたら、酸欠状態になった。
はぁっ、と大きく深呼吸する。
「なんか……怒ってる?」
「怒ってません! 疲れてるんです! 眠いんです!」
そんなに力んだつもりはないが、早朝の空に自分の声が響いてハッとした。
自転車に乗った新聞配達のおじさんが、ニヤニヤしながら通り過ぎていく。
痴話喧嘩だと思われていそうだ。
「おう。悪い。そうだよな」
篠井さんが気まずそうに言った。
「で? どうします? 泊まりますか?」
「オネガイシマス」
ペコッと頭を下げると、篠井さんは私のバッグを奪うように持ち、スタスタと歩き出した。
「何階だ?」
「三階です」
「いいマンションだな」
「駅まで徒歩十分です」
「家賃、高いんじゃね?」
「2LDK、駐車場込みで十五万八千円。因みに、築十三年です」
「その条件なら安い方……か?」
「そうですね。事故物件なので」
「はっ!?」
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