偽装溺愛 ~社長秘書の誤算~

深冬 芽以

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15.溺愛禁止

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 夫婦となり、一緒に暮らし始めたのに、思うように触れられない。

 そのもどかしさに、何度自分で慰めようかと思ったか。

 だが、しなかった。

 したくなかった。

 虚しくなるのはわかっていたから。

「――――っ!」

 後ろ手に熱を握られ、思わず腰が引ける。

 その隙を見逃すまいと、りとの舌が俺の口内に侵入した。

 甘い香りに酔いそうだ。

 スウェット越しに扱かれながら、妻の顎を掴んでいた手で胸を弄る。

「……っは」

 りとの手がスウェットの中にさし込まれ、ガチガチに硬くなった熱に直接触れた。

「りと、やめ――」

「――理人の感じてる表情《かお》が見えなくて、ザンネン」

 彼女の弾む息が頬をくすぐる。

「そんなこと、いつまで言ってられるかな?」

「え? あ――っ!」

 やられっ放しは俺の沽券にかかわる。

 俺はその夜、文字通り精も根も尽き果てるまで妻を愛でた。

 翌日、りとは夕方まで眠り続け、やっと目を覚ましたと同時に言った。

「愛が激しすぎる!」

 今更だ。

「けど、気持ち良かったろ?」

「な――っ! 子供の前でなんてこと言うの!?」

「そんなに神経質にならなくても――」

「――ママ、きもちーかったん?」

「~~~っ!」

 しまった。

 最近の力登のお喋りスキルを侮っていた。

「理人。しばらく禁止です」

「えっ!? 何を――」

「――ナニを!」

「無理だろ」

 りとも俺を求めてくれているとわかったのだ。

 週末は遠慮なしに妻を愛でられると思っていた。

「私を愛してくれているなら、デキるはず」

「何を?」

「お預け、を」



 お預けって――。



「お前っ――しっちょーじゃないんだから――」

「――しっちょー、おしゅわんっ!」

「はっ!?」

 力登がぬいぐるみに向かって人差し指を向けている。

「まて!」

「ほら。しっちょーだって待てができるんだから――」

「――犬と一緒にするな。ってか、ぬいぐるみだろ!」

「しっちょー、どーんっ!」

 横っ腹に、しっちょーに体当たりされる。

「力登、今、パパはママと大事な話を――」

「――パパ、やられた~ってして」

「しない!」

「し~て~っ」

「パパはやられない!」

「とにかく! しばらくは――」

「――無理」

「むり!」

「力登は真似しないの」

「む~り~」

「もうっ!」

「も~」

 力登は真似っこが楽しいらしく、ケラケラ笑っている。

 賑やかな休日の午後。

 この上なく、幸せな時間。

 俺は力登の頬にキスをした。

「りきも~」

 力登から、頬にキスをもらう。

「こんなに可愛いんだ。好きなように愛でさせろよ」

「何事もやり過ぎは――」

 妻の言葉を遮って、唇にキスをする。

「――愛しすぎ、なんてないだろ」

 彼女の頭を抱えるようにして抱きしめ、額にもキスをする。

「りきもちゅ~」

「ほら、もう! りきが真似するじゃない。溺愛もほどほどにして」

「だから、無――」

 今度は妻が俺の唇をキスで塞ぐ。

「――じゃあ、禁止」

「できない相談だな?」

 できるはずがない。

 今だって、十分控え目にしてる。



 これ以上可愛がるなとか、やっぱ無理。



 賢い女が嫌いだった。

 曲者揃いの職場で毎日疲弊し、プライベートでまで頭を使いたくなかった。

 だから、何も考えずに程よい快楽を与え、与えられ、程よい疲れに身体を休めていたかった。

 そうさせてくれる女が、良かった。



 まさか、寝不足になるほど溺れるとはな。



「パパ、どーんっ!」

 力登に首根っこを掴まれたしっちょーが膝頭に頭突きする。

 俺は膝を抱えて蹲り、倒れ込んだ。

「やられた~」

「しっちょーかったー!」



 可愛い息子の為なら、やられた振りくらいいくらでもするさ。

 愛する妻と息子の笑顔を守る為なら、いくらだって――。



----- END -----

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