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15.溺愛禁止

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「力登。今日は俺が迎えに行くからな」

「おう!」

 ネクタイを結ぶ理人の足元で、力登がガッツポーズでジャンプする。

「ねぇ、やっぱり延長保育にした方が――」

「――大丈夫だって」

「だじょーぶ!」

「でも、わざわざ有休取らなくても――」

「――義務の五日、消化しなきゃならないのは言ったろ?」

「そうだけど……」

「保育園プロジェクトの責任者が契約締結に立ち会わなくてどうするんだよ」

「そうだけど……」

 理人と結婚して三か月が過ぎた。

 今日は、トーウンコーポレーションと緑陽園が業務提携の契約を結ぶ。

 決定事項ではあったけれど、契約書を交わすのは全ての根回しが済んでからとなっていた。

 企業型保育園の認可申請もしたし、明日から新園舎建設も始まる。

 異例の速さでプロジェクトが進んだのは、トーウンが保育園の運営は緑陽園に一任すると早々に申し出ていたから。

 トーウンが、専務がそれを決めたのは、力登の影響が大きい。

「力登。保育園は楽しいか?」

「おう! オーデショーすんだ」

「オーデショー?」

 私は力登のバッグから連絡帳を取り出すと、今日のお迎えがパパだと書いた内容をもう一度チェックする。

「オーディション。お遊戯会の役を決めるんだって」

「へぇ。力登はどんな役をやるんだ? あ、それを決めるのか」

「おーじさん! おひめさとちゅーすんの」

「……は?」

「王子様」

「シンデレラとか白雪姫か?」

「プラス眠れる森の美女とラプンツェル」

「は?」

 連絡帳と出来立てのお弁当をバッグに詰めて、力登の準備は良し。

 後は、おむつを替えたら出られる。

「それぞれの王子様とお姫様がこんがらがっちゃうパロディだって。偶然居合わせた四組の王子様とお姫様で、自分の運命の相手が誰かわかるかな? って感じで」

「合コンか?」

「まぁ、そんな感じ?」

「保育園児にそんなことやらせて大丈夫なのか?」

「パロディだからね」

 正直、私も驚いた。

 けれど、ひとつのお話に王子様とお姫様が一人ずつないし二人ずつとなると、どうしても揉め事が起こる。らしい。

 選ばれなかった園児たちはもちろん、保護者からも演目そのものに文句が出る場合もあるそうで。

 その上、先生の意見すら分かれる始末。

 年配の先生はシンデレラや白雪姫推し。若い先生は美女と野獣やラプンツェル推し。

 いち保護者である私が保育園の内情を知ったのは、偏に保育園プロジェクトの責任者だからだ。

 そう。

 力登は緑陽園に通い始めた。

 保育士不足で園児の入所募集をしていなかった園だが、トーウンの、正確には理人の伝手で保育士を二名雇用したのだ。

 新園舎が完成するまでは、力登とトーウン社員の子供二名のみ入所が許された。

 問題点の洗い出し、という意味合いでもある。

 子供を入所させた私たち三名は、週に一度保育園に関するアンケートに答える。

 これは、私が作成したもので、もちろん園側には伝えていない。

 新園舎が完成した時点で、改善点についての要望を出す。

 これは、契約内容にも含まれている。



 まぁ、理人が力登に毎日保育園でのことを聞くのは、アンケートとは関係ないと思うけど。



 面白い、らしい。

 今時の保育園事情や保育園児の実態を知るのが新鮮なようで、理人は毎日驚いている。

 とまぁ、そんな感じで保育士や園児、保護者の希望や意見を取りまとめた結果、四組八名の合コンスタイルとなったそう。
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