偽装溺愛 ~社長秘書の誤算~

深冬 芽以

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15.溺愛禁止

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 一度失敗している身としては、同じ間違いを繰り返したくない。

 離婚の直接の理由が最大の理由となったけれど、あんなことになってしまう前にもっと話し合うべきだったのではないか。

 些細なことでも。

 とにかく、今夜相談してみようと決めた。

 帰宅後、力登は真っ直ぐ電車のおもちゃに走って行った。

 線路は買っていないから、フローリングの上で走らせて遊ぶ。

 線路や駅のセットも買おうとする理人を、すぐに飽きるかもしれないからと説得した。

「しっちょー、てんしゃんきたー!」

 ぬいぐるみのしっちょーに向かって電車を走らせる。

 横っ腹に電車をぶつけてしっちょーを吹っ飛ばすと、力登は電車を置いてしっちょーに駆け寄った。

「しっちょー、いたい?」

 自分で激突させておいて、心配そうにぬいぐるみのお腹を撫でる。

 と思ったら、しっちょーの頭を掴んで走り出す。

「わんわん!」

 今度は電車にしっちょーの頭突き。

 電車はガシャンッと音を立てて横転した。

「しっちょーかったー!」



 え、戦ってたの!?



 遊び方はどうあれ力登は電車に夢中で、私は手を止める必要なくご飯の支度ができた。

 まだ使用感のないキッチンに並んでいるフライパンと鍋。

 いつもより品数も量も多い。



 大丈夫かな……。



 なにせ、理人に初めて振舞う手料理だ。



 こういうのスルーして結婚て……。



 考えても仕方がないことだけれど、本当に勢いで結婚したのだと実感する。

 昨夜は買い物の帰りにファミレスで食べて、今朝はファミレスの帰りに買ってきたパンで済ませた。

 だから、これが最初。

「ママ、こはん~」

 匂いに気づいた力登が、ぬいぐるみを抱いて駆けてくる。

 理人が用意してくれたこの部屋は、以前より一部屋多い3LDKで、それぞれの部屋も広い。

 力登が走りたくなる気持ちもわかる。

「りき、りひ――しっちょーがまだだから――」

 声に出してみて、ハッとした。

 そして、言い直す。

「力登。パパが帰って来るの待ってよう」

「……」

 一日や二日で呼び方を変えるのは難しいかもしれない。

 でも、やっぱりちゃんと呼んでほしい。

 ぬいぐるみをしっちょーと呼ぶから、なおさら。

「ご飯はパパが帰ってきてから一緒に食べよう?」

「おう!」

「りき――」

 ガチャッと玄関からドアが開く音がして、肩に力が入った。

 ずっと力登と二人だったから、家に二人でいる時にドアが開くことなんてなくて、驚いた。

「しっちょーだ!」

 力登が走り出す。

 リビングのドアのガラス部分から、じっと部屋の外を窺う。

 ドアノブにはまだ手が届かない。

「力登。危ないから離れて――」

「――しっちょー!」

 ドアをバンバン叩く。

「力登。そこにいたらし――パパが入って来られないよ」

 力登はドアを叩くのをやめ、じっと私を見る。

「りき?」

「ママ、だっこ」

 力登が両手を広げる。

「どうしたの?」

 抱き上げると、私の首にしがみつく。

 しっちょーをパパに変えようとしたのが気に入らなかったのだろうか。

「こはん……」

 私はリビングのドアを引き開け、旦那様を出迎えた。

「おかえりなさい」

「ただい……ま」

 理人が不思議そうに私と力登を見た。

 そして、手で口を押えると顔を背ける。

「どうしたの?」

「いや、なんか……」

「……?」

「おかーり!」

 力登が理人に向かって手を伸ばしながら身を乗り出す。

 ほぼ反射的に理人は力登を抱きとめた。

「パパ!」

「え?」

「え?」

 私と理人で顔を見合わせる。

「こはん!」

「りき――」

「――たべんの」

「そうじゃなくて――」

「――てんしゃんのね」

「で、ん、しゃ、な」

「で~んしゃん!」

「いや、そうじゃなくて――」

「――たべっか」

 力登はとにかくご飯が食べたいようで、電車の、とは昨日買ったお皿のことだろう。
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