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11.婚約パーティー
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恐らくひと回り以上は年が離れているのに、クリスティーナさんのピシャリとした物言いに、滝田社長が手を引っ込めた。
この二人に恋愛感情は見て取れない。
いくら人前とはいえ、若い女性が恋人とパーティーとなれば、もっとはしゃいでもいいはず。
だが、クリスティーナさんは滝田社長と二人分の距離から近づこうとしない。
そして、それを滝田社長は良しとしていない。
例えば二人の結婚に政略的な意味合いがあるとして、きっと滝田社長が弱い立場だろう。
更に、滝田社長とクリスティーナさんを見る、鹿子木さんの表情が気になる。
般若の面をつけているかのようだ。
「よくお越しくださいました」
滝田社長や鹿子木さんに気を取られている間に、理人と只野さんは壁際に立つ男性に封筒を差し出していた。
さっき、鹿子木さんが声を荒げていた相手だ。
いつの間にか私たちから離れたところに移動している。
会場の中央にいる私たちにはよく聞こえない声量で、男性が二人に話している。
どこかの社長や社長令息には見えない。
怯えたような表情と、丸めた背中。
誰もが注目しているが、彼らの会話は聞こえなかった。
男性は理人と只野さんに何かを言われ、封筒を胸に抱いて頷いた。
理人と只野さんが、更に離れた場所に立っている近本さんのところに向かった。
彼もまた、この場にそぐわない、所在なさげな様子が遠目にもわかる。
近本さんも理人と只野さんと話し込み、やはり何か説得でもされたように封筒を抱えて頷いた。
理人と只野さんは中央に戻り、鹿子木さん父子の前に立つ。
「お忙しい中、お越しくださいましてありがとうございます」
理人が鹿子木さんの父親に封筒を差し出す。
彼は「ご婚約おめでとうございます。俵室長には、娘が大変お世話になりました」と言って、封筒を受け取った。
鹿子木さんと違って、礼儀も分別もある父親のようだ。
理人が今度は鹿子木さんに封筒を渡す。
「来てくれてありがとう」
「……おめでとうございます」
鹿子木さんは不機嫌そうに封筒を受け取った。
次は東雲専務。
これは随分とあっさりしていた。
「社長を連れてくるとは聞いていないが?」
「連れてくるなとは言われてないからな」
「言わなくても――」
「――我が秘書殿の一大イベントを見逃すわけがないだろう?」
会話とは別に、三人の男性は鋭い視線を向け合う。
それを、梓さんが呆れ顔で眺めている。
「皇丞さん、本日はようこそお越しくださいました」
鹿子木さんが一礼する。
「お招きありがとうございます」
「以前お会いした際のお詫びも兼ねて、奥様にも楽しんでいただける余興を準備いたしましたの。ぜひ、最後までご覧くださいね」
「ありがとうございます」
倉ビルの創立記念パーティーで、只野さんは東雲専務と梓さんに随分失礼なことを言っていた。
あの時は、只野さんが専務を四人目の夫にしようと躍起になっているように見えたが、今日はあの時とまるで別人。
只野さんが理人の持っている封筒から一冊を抜き取り、梓さんに差し出した。
「これは、奥様に。喜んでいただけるはずです」
「えっ?」
理人は知らなかったらしく、驚いている。
「個人的なプレゼントなの」
只野さんが微笑む。
見つめ合う理人と只野さんを見ているのは、さすがにつらい。
「裏があるにしても、随分と仲が良さそうだな」
登さんの息が耳にかかる。
気持ち悪い。
愉快そうに弾む息も、ねっとりとした低音も。
一度は愛した人なのに、どうしてここまで嫌悪できるのだろう。
そういえば、ワイドショーのコメンテーターが言っていたことがある。
『愛情の三倍分は憎めますよ。愛していれば愛しているほど、憎しみは大きく深くなるものです。男女二人の問題ならまだいいですが、子供が絡めば更にです。母親は特に、子供の傷は自分の傷同然ですから』
この二人に恋愛感情は見て取れない。
いくら人前とはいえ、若い女性が恋人とパーティーとなれば、もっとはしゃいでもいいはず。
だが、クリスティーナさんは滝田社長と二人分の距離から近づこうとしない。
そして、それを滝田社長は良しとしていない。
例えば二人の結婚に政略的な意味合いがあるとして、きっと滝田社長が弱い立場だろう。
更に、滝田社長とクリスティーナさんを見る、鹿子木さんの表情が気になる。
般若の面をつけているかのようだ。
「よくお越しくださいました」
滝田社長や鹿子木さんに気を取られている間に、理人と只野さんは壁際に立つ男性に封筒を差し出していた。
さっき、鹿子木さんが声を荒げていた相手だ。
いつの間にか私たちから離れたところに移動している。
会場の中央にいる私たちにはよく聞こえない声量で、男性が二人に話している。
どこかの社長や社長令息には見えない。
怯えたような表情と、丸めた背中。
誰もが注目しているが、彼らの会話は聞こえなかった。
男性は理人と只野さんに何かを言われ、封筒を胸に抱いて頷いた。
理人と只野さんが、更に離れた場所に立っている近本さんのところに向かった。
彼もまた、この場にそぐわない、所在なさげな様子が遠目にもわかる。
近本さんも理人と只野さんと話し込み、やはり何か説得でもされたように封筒を抱えて頷いた。
理人と只野さんは中央に戻り、鹿子木さん父子の前に立つ。
「お忙しい中、お越しくださいましてありがとうございます」
理人が鹿子木さんの父親に封筒を差し出す。
彼は「ご婚約おめでとうございます。俵室長には、娘が大変お世話になりました」と言って、封筒を受け取った。
鹿子木さんと違って、礼儀も分別もある父親のようだ。
理人が今度は鹿子木さんに封筒を渡す。
「来てくれてありがとう」
「……おめでとうございます」
鹿子木さんは不機嫌そうに封筒を受け取った。
次は東雲専務。
これは随分とあっさりしていた。
「社長を連れてくるとは聞いていないが?」
「連れてくるなとは言われてないからな」
「言わなくても――」
「――我が秘書殿の一大イベントを見逃すわけがないだろう?」
会話とは別に、三人の男性は鋭い視線を向け合う。
それを、梓さんが呆れ顔で眺めている。
「皇丞さん、本日はようこそお越しくださいました」
鹿子木さんが一礼する。
「お招きありがとうございます」
「以前お会いした際のお詫びも兼ねて、奥様にも楽しんでいただける余興を準備いたしましたの。ぜひ、最後までご覧くださいね」
「ありがとうございます」
倉ビルの創立記念パーティーで、只野さんは東雲専務と梓さんに随分失礼なことを言っていた。
あの時は、只野さんが専務を四人目の夫にしようと躍起になっているように見えたが、今日はあの時とまるで別人。
只野さんが理人の持っている封筒から一冊を抜き取り、梓さんに差し出した。
「これは、奥様に。喜んでいただけるはずです」
「えっ?」
理人は知らなかったらしく、驚いている。
「個人的なプレゼントなの」
只野さんが微笑む。
見つめ合う理人と只野さんを見ているのは、さすがにつらい。
「裏があるにしても、随分と仲が良さそうだな」
登さんの息が耳にかかる。
気持ち悪い。
愉快そうに弾む息も、ねっとりとした低音も。
一度は愛した人なのに、どうしてここまで嫌悪できるのだろう。
そういえば、ワイドショーのコメンテーターが言っていたことがある。
『愛情の三倍分は憎めますよ。愛していれば愛しているほど、憎しみは大きく深くなるものです。男女二人の問題ならまだいいですが、子供が絡めば更にです。母親は特に、子供の傷は自分の傷同然ですから』
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