108 / 164
10.偽装関係の終わり
9
しおりを挟む少し力を入れただけで、吸い込まれるように指が迎え入れられた。
熱い。
関節を曲げて壁を刺激すると、更に滑りが良くなる。
腰を屈めて胸の尖りを口に含むと、りとが顎を引いて身体を強張らせた。
「んんっ」
舌先で尖りを突く。
指を増やして膣内を刺激すると、蜜が溢れてクチュクチュと音がした。
「はっ……ぁんっ」
肩にのせた足が重くなる。
りとが背をしならせ、シーツを掴む。
「ああっ――!」
膣内がうねる。
しっとりと汗ばむ肌、響く悦声、そして、開かれていく身体。
堪らない。
そして、耐えられない。
俺はりとの膣内から指を抜き、身体を起こした。
脱力したりとが、胸を上下させながら俺を見る。
「りと」
「……?」
「このまま挿れてもいいか?」
「――っ」
己の熱を押し当てると、彼女の蜜に濡れた。
そのまま、じっとりとを見つめる。
わずかでも力を入れたら、きっと簡単に滑り込む。
「無理やりにでもそうしてお前と力登が手に入るなら、聞いたりしない」
「りひ――」
「――決めるのはお前だよ、りと」
「私、は……」
「忘れるな。俺を動かすのも止めるのも、お前だ」
「できない……」
りとが、両手で顔を覆う。
「愛してるから、できない……」
『愛してる』
何度も聞いた。
俺は一度も言ったことがないが、何度も言われた。
女の『気持ちいい』の代名詞のようなものだろう。
なのに、聞き慣れたその言葉が、喉を塞ぐ。
鼓動が加速する。
苦しさに涙が滲む。
下瞼に溜まった涙が垂直に落ちて、彼女の胸を濡らした。
「別れのセックスは、しない」
「……っ」
俺は腰を引き、ベッドから下りた。
りとも身体を起こす。
脱ぎ捨てた服を拾い、彼女のものは彼女に渡した。
「理人……」
俺は手早く服を着て、ベッドの端に腰かけた。
りとからは顔が見えない位置に。
前屈みになって、足の上で手を組む。
ごそごそと衣擦れの音がする。
ギシッとベッドのスプリングが軋み、りとが転がったスニーカーを拾い上げた。
視界の端にいるのに、視線を向けられない。
「偽装でも、理人と恋人になれて楽しかった……っし、幸せだった」
「……」
「でも、もう……おしまいね」
「力登のためか?」
「……っ」
「嘘が下手すぎるだろ」
「嘘『でも』いいんでしょう?」
「……ああ」
そうだ。
嘘『でも』、本音『でも』いい。
視界の端から、彼女が消える。
それでも、俺は自分の手を、真っ白な爪を見ていた。
「一ヵ月」
「……え?」
「仕事が終わるまで、一ヵ月だ」
「……」
「力登に、そう伝えてくれ」
「意味なんて――」
「――わからなくていい。それでも、伝えてくれ」
「……わか……った」
ひたひたと、静かに足音が遠ざかって行く。
このまま行かせていいのか。
足元に跪いてでも、引き留めるべきじゃないのか。
そうしたいんじゃないのか。
そうしたい。
当たり前だ。
だが、それでは変わらない。
りとの恐怖は拭えない――。
「りと!」
それほど大きな声を出さなくても、静まり返った部屋の中だ。玄関まで声が届く。
それでも、確実に言葉を届けたくて、声を張る。
「次はやめないからな!」
バタンッとドアが閉まる。
三秒して、俺は寝室を出た。
玄関に置き去りの紙袋を持ってリビングに行き、赤いリボンを解く。
封筒の中には、数枚の写真と、QRコードと数字が載ったカード。
俺はスマホでQRコードを読み取り、求められたパスワードの窓にカードの数字を打ち込んだ。
八桁のその数字は、恐らく姫が言っていた婚約パーティーの日時。ちょうど一ヵ月後の土曜日、十六時。
再生の三角ボタンが現れて、それをタップした。
『――こ――脅迫み――やめ――愛して――幸せにして――』
1
あなたにおすすめの小説
ホウセンカ
えむら若奈
恋愛
☆面倒な女×クセ強男の不器用で真っ直ぐな純愛ラブストーリー!
誰もが振り返る美しい容姿を持つ姫野 愛茉(ひめの えま)は、常に“本当の自分”を隠して生きていた。
そして“理想の自分”を“本当の自分”にするため地元を離れた大学に進学し、初めて参加した合コンで浅尾 桔平(あさお きっぺい)と出会う。
目つきが鋭くぶっきらぼうではあるものの、不思議な魅力を持つ桔平に惹かれていく愛茉。桔平も愛茉を気に入り2人は急接近するが、愛茉は常に「嫌われるのでは」と不安を抱えていた。
「明確な理由がないと、不安?」
桔平の言葉のひとつひとつに揺さぶられる愛茉が、不安を払拭するために取った行動とは――
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
※イラストは自作です。転載禁止。
2月31日 ~少しずれている世界~
希花 紀歩
恋愛
プロポーズ予定日に彼氏と親友に裏切られた・・・はずだった
4年に一度やってくる2月29日の誕生日。
日付が変わる瞬間大好きな王子様系彼氏にプロポーズされるはずだった私。
でも彼に告げられたのは結婚の申し込みではなく、別れの言葉だった。
私の親友と結婚するという彼を泊まっていた高級ホテルに置いて自宅に帰り、お酒を浴びるように飲んだ最悪の誕生日。
翌朝。仕事に行こうと目を覚ました私の隣に寝ていたのは別れたはずの彼氏だった。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
一目惚れ婚~美人すぎる御曹司に溺愛されてます~
椿蛍
恋愛
念願のデザイナーとして働き始めた私に、『家のためにお見合いしろ』と言い出した父と継母。
断りたかったけれど、病弱な妹を守るため、好きでもない相手と結婚することになってしまった……。
夢だったデザイナーの仕事を諦められない私――そんな私の前に現れたのは、有名な美女モデル、【リセ】だった。
パリで出会ったその美人モデル。
女性だと思っていたら――まさかの男!?
酔った勢いで一夜を共にしてしまう……。
けれど、彼の本当の姿はモデルではなく――
(モデル)御曹司×駆け出しデザイナー
【サクセスシンデレラストーリー!】
清中琉永(きよなかるな)新人デザイナー
麻王理世(あさおりせ)麻王グループ御曹司(モデル)
初出2021.11.26
改稿2023.10
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
【19時、駅前。片桐】
その日、机の上に貼られていた付箋に戸惑った。
片桐っていうのは隣の課の俺様課長、片桐課長のことでいいんだと思う。
でも私と片桐課長には、同じ営業部にいるってこと以外、なにも接点がない。
なのに、この呼び出しは一体、なんですか……?
笹岡花重
24歳、食品卸会社営業部勤務。
真面目で頑張り屋さん。
嫌と言えない性格。
あとは平凡な女子。
×
片桐樹馬
29歳、食品卸会社勤務。
3課課長兼部長代理
高身長・高学歴・高収入と昔の三高を満たす男。
もちろん、仕事できる。
ただし、俺様。
俺様片桐課長に振り回され、私はどうなっちゃうの……!?
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
小野寺社長のお気に入り
茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。
悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。
☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる