偽装溺愛 ~社長秘書の誤算~

深冬 芽以

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10.偽装関係の終わり

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 少し力を入れただけで、吸い込まれるように指が迎え入れられた。

 熱い。

 関節を曲げて壁を刺激すると、更に滑りが良くなる。

 腰を屈めて胸の尖りを口に含むと、りとが顎を引いて身体を強張らせた。

「んんっ」

 舌先で尖りを突く。

 指を増やして膣内なかを刺激すると、蜜が溢れてクチュクチュと音がした。

「はっ……ぁんっ」

 肩にのせた足が重くなる。

 りとが背をしならせ、シーツを掴む。

「ああっ――!」

 膣内がうねる。

 しっとりと汗ばむ肌、響く悦声、そして、開かれていく身体。

 堪らない。

 そして、耐えられない。

 俺はりとの膣内から指を抜き、身体を起こした。

 脱力したりとが、胸を上下させながら俺を見る。

「りと」

「……?」

「このまま挿れてもいいか?」

「――っ」

 己の熱を押し当てると、彼女の蜜に濡れた。

 そのまま、じっとりとを見つめる。

 わずかでも力を入れたら、きっと簡単に滑り込む。

「無理やりにでもそうしてお前と力登が手に入るなら、聞いたりしない」

「りひ――」

「――決めるのはお前だよ、りと」

「私、は……」

「忘れるな。俺を動かすのも止めるのも、お前だ」

「できない……」

 りとが、両手で顔を覆う。

「愛してるから、できない……」

『愛してる』

 何度も聞いた。

 俺は一度も言ったことがないが、何度も言われた。

 女の『気持ちいい』の代名詞のようなものだろう。

 なのに、聞き慣れたその言葉が、喉を塞ぐ。

 鼓動が加速する。

 苦しさに涙が滲む。

 下瞼に溜まった涙が垂直に落ちて、彼女の胸を濡らした。

「別れのセックスは、しない」

「……っ」

 俺は腰を引き、ベッドから下りた。

 りとも身体を起こす。

 脱ぎ捨てた服を拾い、彼女のものは彼女に渡した。

「理人……」

 俺は手早く服を着て、ベッドの端に腰かけた。

 りとからは顔が見えない位置に。

 前屈みになって、足の上で手を組む。

 ごそごそと衣擦れの音がする。

 ギシッとベッドのスプリングが軋み、りとが転がったスニーカーを拾い上げた。

 視界の端にいるのに、視線を向けられない。

「偽装でも、理人と恋人になれて楽しかった……っし、幸せだった」

「……」

「でも、もう……おしまいね」

「力登のためか?」

「……っ」

「嘘が下手すぎるだろ」

「嘘『でも』いいんでしょう?」

「……ああ」



 そうだ。

 嘘『でも』、本音『でも』いい。



 視界の端から、彼女が消える。

 それでも、俺は自分の手を、真っ白な爪を見ていた。

「一ヵ月」

「……え?」

「仕事が終わるまで、一ヵ月だ」

「……」

「力登に、そう伝えてくれ」

「意味なんて――」

「――わからなくていい。それでも、伝えてくれ」

「……わか……った」

 ひたひたと、静かに足音が遠ざかって行く。

 このまま行かせていいのか。

 足元に跪いてでも、引き留めるべきじゃないのか。

 そうしたいんじゃないのか。



 そうしたい。

 当たり前だ。



 だが、それでは変わらない。



 りとの恐怖は拭えない――。



「りと!」

 それほど大きな声を出さなくても、静まり返った部屋の中だ。玄関まで声が届く。

 それでも、確実に言葉を届けたくて、声を張る。

「次はやめないからな!」

 バタンッとドアが閉まる。

 三秒して、俺は寝室を出た。

 玄関に置き去りの紙袋を持ってリビングに行き、赤いリボンを解く。

 封筒の中には、数枚の写真と、QRコードと数字が載ったカード。

 俺はスマホでQRコードを読み取り、求められたパスワードの窓にカードの数字を打ち込んだ。

 八桁のその数字は、恐らく姫が言っていた婚約パーティーの日時。ちょうど一ヵ月後の土曜日、十六時。

 再生の三角ボタンが現れて、それをタップした。

『――こ――脅迫み――やめ――愛して――幸せにして――』
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