103 / 164
10.偽装関係の終わり
4
しおりを挟む「少し意外ですね。最初のご主人とは、円満とは言えない別れ方をなさったと思っていました。人の噂とは当てにならないものですね」
「いえ? 当たっていますわ。若く幼気な私の心がボロボロになりましたもの。ですが、義弟には関係のないことです。あの子は……私を慕ってくれていましたから」
「それは――」
目の前のグラスを見つめる姫の瞳は愁いを帯び、言わずとも訳ありだとわかった。
「――妬けますね。あなたが私より大切に思う男、なんて」
「そうですか? コレを見たらきっと、私が誰を大切に思っているかなんてどうでもよくなりましてよ?」
姫が、テーブルの上に赤い封筒を置く。
彼女の手が封筒から少しだけ離れて、見えた。
真っ白な封筒に真っ赤なリボンが巻かれている。
その封筒を俺に向けて押し滑らせるその手は、爪が切り揃えられ、爪も真っ赤でも真っ黒でもなく、自然な色。
「これは?」
「……ひと月後、あなたと私の婚約発表のパーティーを開きます」
「は?」
「コレは、そのパーティーの招待状です」
俺の婚約発表なのに、招待状……ね。
当然だが、初耳だ。
「拝見しても?」
「もちろん。ですが、お一人で見てください。コレを見たあなたのお顔を見たいのはやまやまですが、お返事を待つ時間も楽しみたいので」
手を口元に当てて微笑む姫は、心から愉快そうだ。
「私がお断りするという選択肢はお考えにならない?」
「いえ? それでもパーティーは開きます。広いステージに一人は風通しが良さそうですので、ストールが必要かしらと思うくらいです」
意地でもなんでもない。
本当にそう思っているのだろう。
「エスコートしてくださる気になったら、ご連絡ください」
「……わかりました」
「お待たせいたしました」
先ほどのウェイターが茶色の紙袋を二つ、持って来た。
姫が立ち上がり、一つを受け取る。
「ご馳走様です、理人さん」
「いえ、喜んでいただければいいのですが」
「それは私の言葉ですわ。私が選んだお食事、理人さんのお好みに合えば嬉しいのだけれど」
それだけ言って、姫は店を出て行った。
俺はもう一つの紙袋を受け取り、カードを渡す。
会計の間、少し冷めたコーヒーを飲む。
目の前には、赤いリボンの封筒。
手を伸ばし、リボンの先を突く。
なにを企んでいる……?
結局、俺はリボンを解かなかった。
姫の思惑通りになるのは、癪だったからかもしれない。
封筒を紙袋に放り、マンションに帰った。
土曜の夜。
賑わう駅前を見渡すと、やけにカップルが目に付く。
大学生らしい男女が腕を組んで指を絡め、身体を寄せ合う。それより大人の男女は軽く腕を絡め、夫婦らしい男女は触れ合いこそなくても当然のように同じ行く先を見ている。年配のご夫婦は互いを支えるようにしっかりと手を繋いでいる。
「パパ!」
六歳か七歳くらいの女の子の声がして、姿を探す。
後頭部で長い髪を束ねた女の子が、父親の手に飛びついた。
「手を離しちゃだめでしょう!」
「ああ、ごめん」
父親が娘の手をしっかりと握る。
「ほら、早く! 赤ちゃんが生まれちゃう!」
「走ったら危ないぞ」
1
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ミックスド★バス~湯けむりマッサージは至福のとき
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
温子の疲れを癒そうと、水川が温泉旅行を提案。温泉地での水川からのマッサージに、温子は身も心も蕩けて……❤︎
ミックスド★バスの第4弾です。
やさしい幼馴染は豹変する。
春密まつり
恋愛
マンションの隣の部屋の喘ぎ声に悩まされている紗江。
そのせいで転職1日目なのに眠くてたまらない。
なんとか遅刻せず会社に着いて挨拶を済ませると、なんと昔大好きだった幼馴染と再会した。
けれど、王子様みたいだった彼は昔の彼とは違っていてーー
▼全6話
▼ムーンライト、pixiv、エブリスタにも投稿しています
一夜限りのお相手は
栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月
【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~
蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。
なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?!
アイドル顔負けのルックス
庶務課 蜂谷あすか(24)
×
社内人気NO.1のイケメンエリート
企画部エース 天野翔(31)
「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」
女子社員から妬まれるのは面倒。
イケメンには関わりたくないのに。
「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」
イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって
人を思いやれる優しい人。
そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。
「私、…役に立ちました?」
それなら…もっと……。
「褒めて下さい」
もっともっと、彼に認められたい。
「もっと、褒めて下さ…っん!」
首の後ろを掬いあげられるように掴まれて
重ねた唇は煙草の匂いがした。
「なぁ。褒めて欲しい?」
それは甘いキスの誘惑…。
【R18】ねぇ先輩、抵抗やめなよ~後輩にホテル連れ込まれてマカ飲まされて迫られてんだけど?~
レイラ
恋愛
地方への出張の帰り道。つい飲みすぎて終電を逃してしまった黒戸と、後輩の水瀬。奇跡的にホテルが取れたのだと、水瀬に誘われるがまま向かった先はダブルの一部屋で…?ヒーロー大好きヒロインの、愛が暴走するお話。
※ムーンライトノベルズにも転載しています。
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる