偽装溺愛 ~社長秘書の誤算~

深冬 芽以

文字の大きさ
93 / 164
9.見合い

しおりを挟む


*****


 私の前では、彼はいつも優しかった。

 そして、熱かった。

 私を見つめる目、触れる手、重なる唇、身体。

 言葉も。

「俺だけか!? 偽装なんて忘れてたのは、俺だけか!!? 俺だけが――」

 違う。

 私だって、偽装の関係だなんて思いたくない。

 このまま、本物の恋人になりたいと思っていた。

「――お前と力登が愛おしすぎて苦しいのは、俺だけか……?」

『私も愛している』と、言いたかった。

 力登ごと彼の胸に飛び込めたら。飛び込んでしまいたい。

 何度もそう思った。



 でも――――。



『父親の罪は父親のものだ。りとの罪じゃない』

 登さんはそう言って、私にプロポーズしてくれた。

 登さんのご両親も、私を受け入れてくれた。

 それが、いつまでも自立しない息子の世話役が欲しかっただけにしても、私は嬉しかった。

 その登さんが、言った。

『お前が犯罪者の娘だと知っても、あの男はお前を欲しがるかな――?』

 背筋に汗が伝った。

 冷たい、一筋の汗。

 その汗が、私を夢から覚醒させた。

「やぁ、力登。パパだよ」

 しゃがみ込み、私の足にしがみついて隠れる力登に向かって笑いかけるも、力登にとっては初めて会うおじさんだ。

 ましてや『パパ』とは何かをイマイチ理解もしていない。

 当然、力登は登さんから逃げるように、俯く。

「大人の男の人に慣れてませんから」

 登さんが私を見上げ、一瞬不機嫌そうに顔をしかめた。

 立ち上がり、所在なさ気に立ち尽くす男性を振り返った。

「何十年ぶりかの父娘おやこの対面ですよ、お義父さん」

 私は、私をじっと見つめる、生物学上の父親の視線から逃げるように、足元の息子を見下ろす。

 ドアを開けるつもりはなかった。

 家に入れるつもりも。

 でも、入れた。

 理人には、知られたくなかったから。



 父親が犯罪者だなんて――。



 不安そうに私にしがみつく力登を抱き上げると、彼に頬擦りした。

「なんの用ですか」

「疎遠になっていた父親が娘に会いに来たことに理由なんかないだろ」

 登の言葉に、父が頷く。

 十年ぶりに会う父親は、だいぶ印象が変わっていた。

 痩せて、頬もこけ、昔のような逞しさや威圧感はない。

 私と母が恐れた男の面影はどこにもない。

「可愛い、子だな?」

 父が力登に手を伸ばす。

 私は息子をぎゅっと抱きしめ、身を捩った。

 触らせたくない。

 この男には。

 父の手が、息子に触れることなく、力なく下ろされる。

「そんなに怯えなくても、もう――」

「――寝る時間なんです。帰ってください」

「まだ、九時だぞ?」

「力登は二歳です。いつもならもっと早く布団に入ってるんです」

「パパとお祖父ちゃんが会いに来たんだぞ。寝る時間が少し遅れるくらいなんだってんだよ」

 付き合っていた頃の登さんは、こんな風に思い通りにならないからとすぐに苛立ったり、それを態度に出すような人じゃなかった。

 力登が生まれてからだ。

 私の世界の中心が、自分じゃなくなったから。

 育児に疲れた私が、自分を顧みなくなったから。

「眠いから機嫌が悪いんです。これじゃ、懐くどころか嫌いになってしまいます」

 私の言葉に応えるように、力登が私にしがみつく。

「ままぁ……」

 チッと小さく舌打ちをして、登が背を向けた。

「すみません、お義父さん。今はタイミングが良くないようで」

「仕方ないですよ。子供は親の思い通りにならないものですから」

「まったく、面倒ですが仕方がないですよね。出直しましょう」



 面倒……?

 勝手に押しかけてきておいて――!


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

2月31日 ~少しずれている世界~

希花 紀歩
恋愛
プロポーズ予定日に彼氏と親友に裏切られた・・・はずだった 4年に一度やってくる2月29日の誕生日。 日付が変わる瞬間大好きな王子様系彼氏にプロポーズされるはずだった私。 でも彼に告げられたのは結婚の申し込みではなく、別れの言葉だった。 私の親友と結婚するという彼を泊まっていた高級ホテルに置いて自宅に帰り、お酒を浴びるように飲んだ最悪の誕生日。 翌朝。仕事に行こうと目を覚ました私の隣に寝ていたのは別れたはずの彼氏だった。

ホウセンカ

えむら若奈
恋愛
☆面倒な女×クセ強男の不器用で真っ直ぐな純愛ラブストーリー! 誰もが振り返る美しい容姿を持つ姫野 愛茉(ひめの えま)は、常に“本当の自分”を隠して生きていた。 そして“理想の自分”を“本当の自分”にするため地元を離れた大学に進学し、初めて参加した合コンで浅尾 桔平(あさお きっぺい)と出会う。 目つきが鋭くぶっきらぼうではあるものの、不思議な魅力を持つ桔平に惹かれていく愛茉。桔平も愛茉を気に入り2人は急接近するが、愛茉は常に「嫌われるのでは」と不安を抱えていた。 「明確な理由がないと、不安?」 桔平の言葉のひとつひとつに揺さぶられる愛茉が、不安を払拭するために取った行動とは―― ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ※イラストは自作です。転載禁止。

19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
【19時、駅前。片桐】 その日、机の上に貼られていた付箋に戸惑った。 片桐っていうのは隣の課の俺様課長、片桐課長のことでいいんだと思う。 でも私と片桐課長には、同じ営業部にいるってこと以外、なにも接点がない。 なのに、この呼び出しは一体、なんですか……? 笹岡花重 24歳、食品卸会社営業部勤務。 真面目で頑張り屋さん。 嫌と言えない性格。 あとは平凡な女子。 × 片桐樹馬 29歳、食品卸会社勤務。 3課課長兼部長代理 高身長・高学歴・高収入と昔の三高を満たす男。 もちろん、仕事できる。 ただし、俺様。 俺様片桐課長に振り回され、私はどうなっちゃうの……!?

一目惚れ婚~美人すぎる御曹司に溺愛されてます~

椿蛍
恋愛
念願のデザイナーとして働き始めた私に、『家のためにお見合いしろ』と言い出した父と継母。 断りたかったけれど、病弱な妹を守るため、好きでもない相手と結婚することになってしまった……。 夢だったデザイナーの仕事を諦められない私――そんな私の前に現れたのは、有名な美女モデル、【リセ】だった。 パリで出会ったその美人モデル。 女性だと思っていたら――まさかの男!? 酔った勢いで一夜を共にしてしまう……。 けれど、彼の本当の姿はモデルではなく―― (モデル)御曹司×駆け出しデザイナー 【サクセスシンデレラストーリー!】 清中琉永(きよなかるな)新人デザイナー 麻王理世(あさおりせ)麻王グループ御曹司(モデル) 初出2021.11.26 改稿2023.10

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

小野寺社長のお気に入り

茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。 悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。 ☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

処理中です...