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5.大人の情事

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 俺が口出しすることではない。

 だが、無性に苛立つ。

 いくら祖父母で、息子とは違っても、あの男を育てた人間だ。

 信用などできるはずがない。

 りともそう思うから、こうして一人で泣いているのではないか。

「嫌なら会わせなければいい」

「嫌……では――」

「――なら、どうして泣いている」

 ハッとして、りとが手で涙を拭う。

 俺はその手を、手首を掴んだ。

 そして、ちょうど乗客を降ろしたばかりのエレベーターに乗り込む。

「しつちょ――」

 降りた乗客は年配の夫婦で、夫は杖を突いていた。

 妻は俺たちをじっと見ている。

 俺が泣かせていると思われたのだろう。

 当然だ。

 俺の部屋まで上がり、玄関前で鍵を取り出すまで、手を離さなかった。

「室長、私――」

 ドアの内側に彼女を押し込み、廊下に荷物を放ると、俺は彼女を抱きしめた。

「泣くな」

「……っ! ふ……」

 逆効果だったようだ。

 泣くなと言ったのに、彼女は泣いた。

 俺の腕の中で、声を殺して。

「し……ちょ――」

「力登じゃないんだから、いい加減名前で呼べよ」

 髪の毛ごとうなじを掴み、拒む隙を与えずに彼女の唇を塞いだ。

 女の涙に、意味なんてない。

 男を堕とす為、自分を守る為の、飛び道具だ。

 そう思うのに、なぜりとの涙を見て胸がざわつく。苛立つ。

 唇を押し付け、下唇に吸い付くと、彼女の唇が開いた。

 そして、舌先で俺の唇をノックする。

 彼女自ら、俺を迎えてくれた。

 歯と歯がぶつかるほど深く、舌の付け根まで弄るように、舌を挿し込む。

 彼女の口内はやはり、甘かった。

 味わうように、寸分の隙もなく舐め尽くす。

 いつもは、こんなキスはしない。

 口の端から唾液が滴り、顎までベトベトになるようなキス。

 こんな、余裕のないキスは、しない。

 したことがない。

 唇が熱い。

 口内にこもる互いの吐息も。

 互いを抱く腕も。

 我慢できなかった。

 それを、彼女にも教えた。

 腰を強く抱き寄せ、このまま止めなければどうなるかを。

 りとの足の間に俺の足を割り込ませると、彼女のつま先が宙に浮いた。

 ドアについた俺の膝の上に彼女が跨っている状態だ。

 腰を押し付ければ、硬くなった熱に否応なく気づくだろう。

 拒むなら、今だ。

 拒む隙なんて与えていないくせに、そう思った。

 だが、それも一瞬だけ。

 りとの手が、俺の首に伸び、絡む。

 うなじをさわさわと撫でられると、もう、理性なんて吹っ飛んだ。

 彼女の靴を脱がせ、自分も脱ぐと、力登にするようにりとの尻を腕にのせて抱き上げた。

 りとの方が目線が高くなる。

 それでも、唇は離れなかった。

 腕も足も俺に絡み、離れる気なんてない意思表示されているようで嬉しかった。

 歩くと彼女の髪が俺の頬をくすぐり、その度に甘い香りが強くなって昂ぶりが増す。

 くちゅくちゅと互いの唇と舌が漏らす水音が熱を帯び、身体が熱い。

 寝室のドアを開け、俺は彼女を抱えたままベッドに上がった。

 りとの身体が俺のベッドに沈む。

 女を自宅に入れたことはない。

 来たがる女はいたが、プライベートスペースを曝け出してもいいと思える女はいなかった。



 なのに、なぜ、りとは連れてきた?



 きっと、数時間後には考えるのだろう。

 だが、今じゃない。

 今は、それどころじゃない。

 りとのニットの裾をめくり上げ、インナーをパンツから引き抜くと、無遠慮に素肌に触れた。

 そして、その手を奥へと撫で進める。

 りともまた、俺のジャケットの内側に手を入れ、ワイシャツのボタンを外していく。

 求めているし求められている。

 今は、それがすべてだ。
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