44 / 164
5.大人の情事
4
しおりを挟むそう思われても仕方がない。
俺自身、どうしてこんなに彼女が気になるのかわからない。
子持ちの部下に手を出すほど女に不自由しているわけではないし、只野姫のことだって、どうにかしようと思えばどうにかできる。
なのに、彼女が協力してくれるのなら、それでいいと思ってしまう。
只野姫の前では、彼女が俺の恋人を演じてくれるのなら、それはそれで面白そうだと。
そんな風に、女と関わろうとする自分に驚くばかりだ。
こうして、なんとか彼女を言いくるめて、偽装でも恋人らしいことを求めていることにも。
「本気だ」
「何が?」
「あんたに興味がある」
「~~~っ!」
口説いているというほどの台詞でもない。
なのに、顔を赤らめて唇を震わせる彼女は、きっと口説かれ慣れていないのだろう。
そんな彼女も可愛いと思う。
可愛い……?
その言葉が、なんだかものすごくむず痒い。
「他の女と一緒にいるところを只野姫に見られたら、りとの協力が無意味になる。りとの元旦那に見られても同じだ。それに、俺はりとに興味がある。りとだって、たまには母親ではなく女扱いされたくないか?」
「そんなこと、考えたことも――」
「――ワンナイトとかシたことない?」
「ありません!」
だろうな。
どれほど仕事はきっちりこなせても、異性関係が爛れている人間なんて珍しくない。
俺も、その一人だろう。
だが、りとは違う。
仕事も私生活も異性関係も、割と神経質なタイプだろう。
「次にセックスする相手は、力登の父親候補?」
「え?」
「え?」
「せっかく独身なんだ。別に――」
「――ママ……」
俺とりとが揃って視線を落とす。
いつの間にか目を覚ましていたようだ。
ぼうっとしながら、俺のTシャツを咥えている。
「力登」
りとが息子を呼ぶ。
力登が母親を見て、パチリと目を開いた。
「ママ!」
母親に向かって真っすぐに伸ばされた、小さな力登の手。
その手を、りとが躊躇なく受け止める。
力登が座っていた俺の膝の上は、少し汗ばんでいて、温かい。
だが、すぐにヒヤッと寒く、というか寂しく感じた。
「りき、ぐっすり寝た?」
母親の腕に抱かれてご満悦の力登が、それまで俺にしていたように彼女の胸にぐりぐりと顔を押し付ける。
「ママはぁ?」
「ぐっすり寝たよ」
母親は偉大だ。
力登の無邪気な表情を見て、そう思う。
無条件で、絶対的に安心できる存在。
俺は、ゆっくりと立ち上がり、ぐっと背筋を伸ばした。
「俺も、久しぶりに昼寝したな」
「しっちょー、おはよ!」
「おはよ」
力登の頭を撫で、その手で彼の視界を遮る。
そして、りとの腰を抱き寄せた。
「熱は、下がったか?」
「え?」
言い訳だ。
彼女にキスをするための。
俺は、ゆっくりと顔を寄せた。
強引な自覚はある。
だから、この前のように、彼女の反応を見た。
無理強いはしたくない。
今更だが。
戸惑いながらも、りとが目を閉じ、俺も目を閉じた。
唇が触れる。
優しく、柔らかく。
軽く彼女の下唇を食み、吸い付く。
「ん~~~っ!」
力登の呻き声がなければ、もっとずっとシていただろう。
俺は舌で彼女の唇をぺろりと舐め、離れた。
力登の視界を塞いでいた手も、離す。
「まだ、熱いな」
「誰のせい――っ!」
うっすらと涙を浮かべるりとは、とても年上には見えない。
可愛いな。
1
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ミックスド★バス~湯けむりマッサージは至福のとき
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
温子の疲れを癒そうと、水川が温泉旅行を提案。温泉地での水川からのマッサージに、温子は身も心も蕩けて……❤︎
ミックスド★バスの第4弾です。
やさしい幼馴染は豹変する。
春密まつり
恋愛
マンションの隣の部屋の喘ぎ声に悩まされている紗江。
そのせいで転職1日目なのに眠くてたまらない。
なんとか遅刻せず会社に着いて挨拶を済ませると、なんと昔大好きだった幼馴染と再会した。
けれど、王子様みたいだった彼は昔の彼とは違っていてーー
▼全6話
▼ムーンライト、pixiv、エブリスタにも投稿しています
一夜限りのお相手は
栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月
【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~
蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。
なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?!
アイドル顔負けのルックス
庶務課 蜂谷あすか(24)
×
社内人気NO.1のイケメンエリート
企画部エース 天野翔(31)
「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」
女子社員から妬まれるのは面倒。
イケメンには関わりたくないのに。
「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」
イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって
人を思いやれる優しい人。
そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。
「私、…役に立ちました?」
それなら…もっと……。
「褒めて下さい」
もっともっと、彼に認められたい。
「もっと、褒めて下さ…っん!」
首の後ろを掬いあげられるように掴まれて
重ねた唇は煙草の匂いがした。
「なぁ。褒めて欲しい?」
それは甘いキスの誘惑…。
【R18】ねぇ先輩、抵抗やめなよ~後輩にホテル連れ込まれてマカ飲まされて迫られてんだけど?~
レイラ
恋愛
地方への出張の帰り道。つい飲みすぎて終電を逃してしまった黒戸と、後輩の水瀬。奇跡的にホテルが取れたのだと、水瀬に誘われるがまま向かった先はダブルの一部屋で…?ヒーロー大好きヒロインの、愛が暴走するお話。
※ムーンライトノベルズにも転載しています。
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる