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【番外編】最後の夜、最初の夜
最初の夜 -7
しおりを挟むヴヴヴッとスマホのバイブ音が聞こえ、それすらも頭に響いて痛みを感じた。
腕の中の麻衣が寝返りをして、ゆっくりとベッドを出た。
重すぎる瞼は、俺に目覚めることを許さない。
涼しくなった腕を布団の中に入れた。
それにしても、麻衣のウエディングドレス姿は綺麗だったなぁ。
写真、いつ出来てくるんだったかな……。
麻衣が選んだウエディングドレスは、Aラインという形の、オフホワイトでツルツル素材の、肩や腕が出ているのに肩ひもなんかがないもの。ドレスのことはよくわからない俺だったが、さすがに、『え? シンプル過ぎじゃね?』と思ったくらい。
だが、それが身体のラインを強調していて、俺は思わず唾を飲んだ。
胸が強調されるのが嫌だと言っていたのに、と目のやり場に困っていると、女の人が二人がかりで。長いショールで麻衣の腰からぐるっと上半身を包んだ。
前から見るとクロス、後ろから見ると肩の高さで真っ直ぐ。で、仕上げに腰で結んで大きなりぼんを作ると端を垂らした。引きずるくらいの長さで、それがいいのだと言う。
説明が難しいが、とにかく、麻衣自身がプレゼントのようなドレス。
それにティアラとベールをつけて、出来上がり。
泣きたくなるほど綺麗だった。
実際に、ちょこっと泣いた。
同時に、プレゼントを解きたくなったのは、内緒だ。
人前ではもったいなくて見せられなかったが、写真でだけりぼんを解いてもらった。
髪も解いたら、すげーエロく感じた。
同じドレスなのに、全然違った印象で驚いた。
着物も着た。
白無垢は写真だけ。
これまためちゃくちゃ綺麗で、このまま部屋に飾っておきたかった。
真っ白な着物に、真っ赤な口紅がエロく見えて勃ちそうになった新郎は、俺だけだろうか。
色……うち? とかいう柄物の着物は、披露宴でも着た。
赤に金の柄。
これは可愛かった。
白無垢の大人の色っぽさとは違って、並ぶと俺と同じ年だと言ってもバレないと思った。
実際に、そんなようなことを友達からも言われた。
とにかく、麻衣のドレス姿や着物姿を思い出すだけで、簡単に勃つほど俺は興奮した。
だから当然、こうして二日酔いによる頭痛で瞼も上がらないほどなのに、勃っている。
けど、さすがに、今は無理だ……。
耽っていて気づかなかったが、麻衣はどうしたろう。
トイレに行っただけにしては遅い。
シャワーだろうか。それらしい音はしないが。
耳を澄ますと、遠くで麻衣の声が聞こえた気がした。
できるだけ頭を刺激しないように、寝返りをする。瞼をこじ開ける。
洗面所のドアが閉まっていて、麻衣の声はその中から聞こえる。
「も――、なんで――。そんなの――から!」
電話しているようだ。
俺は再び瞼を閉じようとした。
「陸!」
さほど大きな声でもないのに、その名前が耳に飛び込むなり、ガバッと起き上がる。
「――っ!」
ズキンッ、と頭蓋骨にひびが入ったのではと思うような鋭い痛み。
頭を押さえ、ゆっくりとベッドを降りる。乱れたバスローブを合わせ、床に落ちていた腰ひもで固定する。
「そん――ないよ! ……――だったから!」
声のする方へゆっくりと足を進める。
「とにかく! もう駿介をイジメるのやめてよね」
洗面所のドアの前まで来ると、ドア越しにも麻衣の声がハッキリと聞こえた。
「残念でした! とーっても素敵な初夜だったんだから! 陸のバカッ!」
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