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【番外編】最後の夜、最初の夜
最初の夜 -6
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頭が重い。いや、痛い。
当たり前か、あんなに飲んだし。
つーか、ウイスキーなんてまともに飲んだことあったか!?
もう、二度とウイスキーなんて飲みたくない。
『幸せな新郎はビールしか知らないお子ちゃまかよ。本当の酒の味を知ってるとは言えないな』
わかりやすい挑発に、俺はわかりやすくムッとした。
肩に腕を回され、グイッと顔を寄せられる。
『麻衣が言ってたな。ウイスキーとか飲めるのって大人って感じで格好いい、って』
陸さんの持っているグラスから、ウイスキーの香りがした。
『ま、好き好きだからな?』
俺の肩から腕を離した陸さんは、疎い俺でもわかるほど上品な艶のあるグレーのスーツで足を組んだ。
背が高くてイケメンで、高級なスーツを着て足を組み、手にはウイスキーのグラス。
絵にならないわけがない。
なんで麻衣が俺を選んでくれたのか、微塵もわかんねー。
俺が女だったら絶対陸さんに惚れる。
でなきゃ、やはりイケメンで、陽気で、人当たりの良い大和さん。
もしくは、やっぱりイケメンで、穏やかで、優しい龍也さん。
この三人と並びたくねー。
とは言え、三人は麻衣の友達で、うち二人は親友の旦那さん。
陸さんはイギリスにいるから無理だけど、三か月に一度くらいのペースでみんなで集まるし、一年前からは俺も参加させてもらっている。
みんなすごくいい人で、大和さんとさなえさんのお子さんも、比呂さんと千尋さんのお子さんも可愛くて、俺にも懐いてくれている。
そうだよ。
今では俺だってOLCの一員なんだし、陸さんよりみんなの近くにいるんだし。
卑屈になったら麻衣に叱られる!
そう自分に言い聞かせて陸さんの言葉を聞き流そうとした時、大和さんが言った。
『陸! 駿介を苛めんなよ。つーか、ウイスキー飲まして腰が抜けたら、麻衣に恨まれんぞ』
大和さんに悪気がないことはわかっているのだが、いたたまれない。
『それもそうだな? 可愛い麻衣の初夜を台無しにしたくはないからな。駿介?』
ついさっきまで、鶴本、と呼んでいた陸さんに名前を呼び捨てにされ、これまでに何十杯と飲み干したビールが全身で泡立ち、俺は思わず陸さんの手からロックグラスをかすめ取った。
一気に飲み干す。
残っていたのが僅かで良かった。
『ストップ! 駿介!』
腕を掴まれ、危うくグラスを落とすところだった。
『飲みなれないもん飲んで倒れたらどうするんだ』と言って、龍也さんが水のグラスを差し出す。
やっぱり、龍也さんは優しい。
俺は水を飲み、大きく息を吐いた。
『陸さんも、お祝いの席で無茶させないでくださいよ』
『なんだよ。こんなの無茶のうちに入んねーだろ?』
『陸さん!』
『はいはい。お前の嫁が怖えー顔で睨んでるから、退散するよ』
陸さんが立ち上がり、空いている席に移動する。彼の注文を受けてウエイターが運んできたのは、やっぱりウイスキーだった。
大和さんと龍也さんが、気を取り直して何回目かわからない乾杯をしようと声をあげ、ついでにキスをしろと盛り上がり、俺は陸さんに見せつけるべく濃厚なキスを披露した。
そういうとこが子供なんだよな、きっと……。
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