【ルーズに愛して】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

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【番外編】最後の夜、最初の夜

最初の夜 -6

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*****



 頭が重い。いや、痛い。



 当たり前か、あんなに飲んだし。

 つーか、ウイスキーなんてまともに飲んだことあったか!?



 もう、二度とウイスキーなんて飲みたくない。

『幸せな新郎はビールしか知らないお子ちゃまかよ。本当の酒の味を知ってるとは言えないな』

 わかりやすい挑発に、俺はわかりやすくムッとした。

 肩に腕を回され、グイッと顔を寄せられる。

『麻衣が言ってたな。ウイスキーとか飲めるのって大人って感じで格好いい、って』

 陸さんの持っているグラスから、ウイスキーの香りがした。

『ま、好き好きだからな?』

 俺の肩から腕を離した陸さんは、疎い俺でもわかるほど上品な艶のあるグレーのスーツで足を組んだ。

 背が高くてイケメンで、高級なスーツを着て足を組み、手にはウイスキーのグラス。

 絵にならないわけがない。



 なんで麻衣が俺を選んでくれたのか、微塵もわかんねー。



 俺が女だったら絶対陸さんに惚れる。

 でなきゃ、やはりイケメンで、陽気で、人当たりの良い大和さん。

 もしくは、やっぱりイケメンで、穏やかで、優しい龍也さん。



 この三人と並びたくねー。



 とは言え、三人は麻衣の友達で、うち二人は親友の旦那さん。

 陸さんはイギリスにいるから無理だけど、三か月に一度くらいのペースでみんなで集まるし、一年前からは俺も参加させてもらっている。

 みんなすごくいい人で、大和さんとさなえさんのお子さんも、比呂さんと千尋さんのお子さんも可愛くて、俺にも懐いてくれている。



 そうだよ。

 今では俺だってOLCの一員なんだし、陸さんよりみんなの近くにいるんだし。

 卑屈になったら麻衣に叱られる!



 そう自分に言い聞かせて陸さんの言葉を聞き流そうとした時、大和さんが言った。

『陸! 駿介を苛めんなよ。つーか、ウイスキーそんなもん飲まして腰が抜けたら、麻衣に恨まれんぞ』

 大和さんに悪気がないことはわかっているのだが、いたたまれない。

『それもそうだな? 可愛い麻衣の初夜を台無しにしたくはないからな。駿介?』

 ついさっきまで、鶴本、と呼んでいた陸さんに名前を呼び捨てにされ、これまでに何十杯と飲み干したビールが全身で泡立ち、俺は思わず陸さんの手からロックグラスをかすめ取った。

 一気に飲み干す。

 残っていたのが僅かで良かった。

『ストップ! 駿介!』

 腕を掴まれ、危うくグラスを落とすところだった。

『飲みなれないもん飲んで倒れたらどうするんだ』と言って、龍也さんが水のグラスを差し出す。

 やっぱり、龍也さんは優しい。

 俺は水を飲み、大きく息を吐いた。

『陸さんも、お祝いの席で無茶させないでくださいよ』

『なんだよ。こんなの無茶のうちに入んねーだろ?』

『陸さん!』

『はいはい。お前の嫁が怖えー顔で睨んでるから、退散するよ』

 陸さんが立ち上がり、空いている席に移動する。彼の注文を受けてウエイターが運んできたのは、やっぱりウイスキーだった。

 大和さんと龍也さんが、気を取り直して何回目かわからない乾杯をしようと声をあげ、ついでにキスをしろと盛り上がり、俺は陸さんに見せつけるべく濃厚なキスを披露した。



 そういうとこが子供ガキなんだよな、きっと……。


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