【ルーズに愛して】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

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【番外編】最後の夜、最初の夜

最初の夜 -4

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「あっ……、ああっ……!」

 駿介の膝が小さく跳ねた。

「……っく!」

 口の中で駿介が膨張したと思ったら、喉の奥に生温かいねっとりとした液体が飛び散った。

「んんっ!」

 さらに喉の奥を目指すように、彼が腰を浮かせた。

 一瞬だけおえっと喉が鳴ったが、なんとか飲み込む。

「ま……いぃ」

 口を離すと、彼は脱力して、小さく柔らかく姿を変えていた。

 いつもならば吐き出すようにとティッシュを差し出してくれるのに、と思ったら、駿介は仰向けになったままで肩を震わせていた。

 私は彼の飲みかけのミネラルウォーターを手に取り、喉の不快感も一緒に飲み込んだ。

「ごめ――」

「――なにが?」

「俺だけイッちゃ……て……」

「私がイカせたんだから」

「だけ……ど……」

「昨日から疲れたでしょう? 今日は、もう寝よう」

 私は彼のはだけたバスローブを正しい状態に戻し、足元に畳まれた掛け布団を広げた。

「麻衣は……?」

 布団から顔だけ出した駿介が、震える小型犬のような表情で私を見る。

「トイレ行ってくるだけ」

「俺が寝ちゃう前に戻ってきて」

 なんて可愛い旦那様なのか。

 私は手を洗い、トイレを済ませて、ベッドに戻る。布団に入り、駿介が伸ばした腕に頭を載せた。

「おやすみ」

「おやすみ」

 駿介が私のおでこにキスをくれた。

 数秒で、頭の上から寝息が聞こえだす。



 明日はなかなか起きられないだろうなぁ……。



 明日と明後日の仕事が休みで良かった。

 新居への引っ越しも済んでいたし、新婚旅行はひと月後を予定していたから、明後日は出勤するつもりでいた。

 小さな事務所だから、二人一緒に休むとどうなるかはわかっている。

 けれど、事務所のみんなが揃って有給休暇を勧めてくれた。

 二日あれば駿介の酔いも醒め、機嫌も直るだろう。

 昨日から、日付が変わったから正確には一昨日だが、駿介には緊張し通しの二日間だったはず。私自身もバタバタしていて、ゆっくりフォローをしてあげられなかった。

 一昨日、駿介のお仕置きが終わった朝、私は予定通り実家に帰った。

 結婚式前夜はお互いに、実家で過ごすことにしていたからだ。

 ところが、私を実家まで送ってくれた駿介が、両親に挨拶をした時、とんでもないことを言い出したのだ。

『無事に婚姻届は出せたの?』と、母が聞いた。

『うん。休日窓口の人のチェックでは――』と、私が用意しておいた台詞を言いかけた時、隣にいた駿介がガバッと床に両手をついて頭を下げた。

『申し訳ありませんでした!』

 その場にいた両親と私が仰天する中、彼は頭を下げたままで続けた。

『本当は、二か月前に届を出していました!!』

『ちょ――、駿介?!』

『二か月前に、麻衣さんが妊娠したかもしれないと思い、パニクッて出してしまいました!』

『妊娠!?』

 私たちの正面でソファに座っていた父が立ち上がる。

『麻衣! 妊娠してるのかっ!?』

『してない! 結局、してなかったの!』

『検査する前に、僕が勝手に出してしまったんです!』

『何を出したって?!』

 父の怒鳴り声に、私はギュッと目を閉じた。

 父は厳しい人だが、大声を出すことはあまりない。

 逆に、駿介は顔を上げた。

『こっ、婚姻届です! すみません、言い方が適切ではありませんでした! 妊娠しているかの検査をする前に、婚姻届を提出してしまいました!』

『ああ。婚姻届……』



 え、ナニを出したと思ったのよ……。



 父親には絶対に突っ込みたくない疑問を、心の中で呟いた。

 父の隣に座る母の、冷ややかな父への視線から、母も私と同じことを考えたのだとわかった。
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