175 / 179
【番外編】最後の夜、最初の夜
最初の夜 -4
しおりを挟む「あっ……、ああっ……!」
駿介の膝が小さく跳ねた。
「……っく!」
口の中で駿介が膨張したと思ったら、喉の奥に生温かいねっとりとした液体が飛び散った。
「んんっ!」
さらに喉の奥を目指すように、彼が腰を浮かせた。
一瞬だけおえっと喉が鳴ったが、なんとか飲み込む。
「ま……いぃ」
口を離すと、彼は脱力して、小さく柔らかく姿を変えていた。
いつもならば吐き出すようにとティッシュを差し出してくれるのに、と思ったら、駿介は仰向けになったままで肩を震わせていた。
私は彼の飲みかけのミネラルウォーターを手に取り、喉の不快感も一緒に飲み込んだ。
「ごめ――」
「――なにが?」
「俺だけイッちゃ……て……」
「私がイカせたんだから」
「だけ……ど……」
「昨日から疲れたでしょう? 今日は、もう寝よう」
私は彼のはだけたバスローブを正しい状態に戻し、足元に畳まれた掛け布団を広げた。
「麻衣は……?」
布団から顔だけ出した駿介が、震える小型犬のような表情で私を見る。
「トイレ行ってくるだけ」
「俺が寝ちゃう前に戻ってきて」
なんて可愛い旦那様なのか。
私は手を洗い、トイレを済ませて、ベッドに戻る。布団に入り、駿介が伸ばした腕に頭を載せた。
「おやすみ」
「おやすみ」
駿介が私のおでこにキスをくれた。
数秒で、頭の上から寝息が聞こえだす。
明日はなかなか起きられないだろうなぁ……。
明日と明後日の仕事が休みで良かった。
新居への引っ越しも済んでいたし、新婚旅行はひと月後を予定していたから、明後日は出勤するつもりでいた。
小さな事務所だから、二人一緒に休むとどうなるかはわかっている。
けれど、事務所のみんなが揃って有給休暇を勧めてくれた。
二日あれば駿介の酔いも醒め、機嫌も直るだろう。
昨日から、日付が変わったから正確には一昨日だが、駿介には緊張し通しの二日間だったはず。私自身もバタバタしていて、ゆっくりフォローをしてあげられなかった。
一昨日、駿介のお仕置きが終わった朝、私は予定通り実家に帰った。
結婚式前夜はお互いに、実家で過ごすことにしていたからだ。
ところが、私を実家まで送ってくれた駿介が、両親に挨拶をした時、とんでもないことを言い出したのだ。
『無事に婚姻届は出せたの?』と、母が聞いた。
『うん。休日窓口の人のチェックでは――』と、私が用意しておいた台詞を言いかけた時、隣にいた駿介がガバッと床に両手をついて頭を下げた。
『申し訳ありませんでした!』
その場にいた両親と私が仰天する中、彼は頭を下げたままで続けた。
『本当は、二か月前に届を出していました!!』
『ちょ――、駿介?!』
『二か月前に、麻衣さんが妊娠したかもしれないと思い、パニクッて出してしまいました!』
『妊娠!?』
私たちの正面でソファに座っていた父が立ち上がる。
『麻衣! 妊娠してるのかっ!?』
『してない! 結局、してなかったの!』
『検査する前に、僕が勝手に出してしまったんです!』
『何を出したって?!』
父の怒鳴り声に、私はギュッと目を閉じた。
父は厳しい人だが、大声を出すことはあまりない。
逆に、駿介は顔を上げた。
『こっ、婚姻届です! すみません、言い方が適切ではありませんでした! 妊娠しているかの検査をする前に、婚姻届を提出してしまいました!』
『ああ。婚姻届……』
え、ナニを出したと思ったのよ……。
父親には絶対に突っ込みたくない疑問を、心の中で呟いた。
父の隣に座る母の、冷ややかな父への視線から、母も私と同じことを考えたのだとわかった。
0
お気に入りに追加
269
あなたにおすすめの小説
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

お酒の席でナンパした相手がまさかの婚約者でした 〜政略結婚のはずだけど、めちゃくちゃ溺愛されてます〜
Adria
恋愛
イタリアに留学し、そのまま就職して楽しい生活を送っていた私は、父からの婚約者を紹介するから帰国しろという言葉を無視し、友人と楽しくお酒を飲んでいた。けれど、そのお酒の場で出会った人はその婚約者で――しかも私を初恋だと言う。
結婚する気のない私と、私を好きすぎて追いかけてきたストーカー気味な彼。
ひょんなことから一緒にイタリアの各地を巡りながら、彼は私が幼少期から抱えていたものを解決してくれた。
気がついた時にはかけがえのない人になっていて――
表紙絵/灰田様
《エブリスタとムーンにも投稿しています》

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
禁断溺愛
流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。
【ルーズに愛して】指輪を外したら、さようなら
深冬 芽以
恋愛
インテリアデザイナーの相川千尋《あいかわちひろ》は、よく似た名前の同僚で妻と別居中の有川比呂《ありかわひろ》と不倫関係にある。
ルールは一つ。
二人の関係は、比呂の離婚が成立するまで。
その意味を深く考えずに関係を始めた比呂だったが、今となっては本気で千尋を愛し始めていた。
だが、比呂の気持ちを知っても、頑なにルールを曲げようとしない千尋。
千尋と別れたくない比呂は、もう一つのルールを提案する。
比呂が離婚しない限り、絶対に別れない__。
【ルーズに愛して】シリーズ
~登場人物~
相川千尋《あいかわちひろ》……O大学ルーズサークルOG
トラスト不動産ホームデザイン部インテリアデザイン課主任
有川比呂《ありかわひろ》……トラスト不動産ホームデザイン部設計課主任
千尋の同僚
結婚四年、別居一年半の妻がいる
谷龍也《たにたつや》……O大学ルーズサークルOB
|Free Style Production《フリー スタイル プロダクション》営業二課主任
桑畠《くわはた》あきら……O大学ルーズサークルOG
市役所勤務、児童カウンセラー
小笠原陸《おがさわらりく》……O大学ルーズサークルOB
|Empire HOTEL《エンパイアホテル》支配人
小笠原春奈《おがさわらはるな》……陸の妻
|Empire HOTEL《エンパイアホテル》のパティシエ
新田大和《にったやまと》……O大学ルーズサークルOB
新田設計事務所副社長
五年前にさなえと結婚
新田《にった》さなえ……O大学ルーズサークルOG
新田大斗《にっただいと》……大和とさなえの息子
亀谷麻衣《かめやまい》……O大学ルーズサークルOG
楠行政書士事務所勤務
婚活中
鶴本駿介《つるもとしゅんすけ》……楠行政書士事務所勤務
エリート課長の脳内は想像の斜め上をいっていた
ピロ子
恋愛
飲み会に参加した後、酔い潰れていた私を押し倒していたのは社内の女子社員が憧れるエリート課長でした。
普段は冷静沈着な課長の脳内は、私には斜め上過ぎて理解不能です。
※課長の脳内は変態です。
なとみさん主催、「#足フェチ祭り」参加作品です。完結しました。
アダルト漫画家とランジェリー娘
茜色
恋愛
21歳の音原珠里(おとはら・じゅり)は14歳年上のいとこでアダルト漫画家の音原誠也(おとはら・せいや)と二人暮らし。誠也は10年以上前、まだ子供だった珠里を引き取り養い続けてくれた「保護者」だ。
今や社会人となった珠里は、誠也への秘めた想いを胸に、いつまでこの平和な暮らしが許されるのか少し心配な日々を送っていて……。
☆全22話です。職業等の設定・描写は非常に大雑把で緩いです。ご了承くださいませ。
☆エピソードによって、ヒロイン視点とヒーロー視点が不定期に入れ替わります。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる