167 / 179
【番外編】最後の夜、最初の夜
最後の夜 -9
しおりを挟む「ん……」
喉が渇く。
寝返りをすると、頭がズキンッと痛んだ。
ゆっくりと瞼を持ち上げる。
顔中がぴきぴきしている。
メイク……落としてない。
とにかく、喉が渇いていた。
「お目覚めか」
低い声に、私は慌てて身体を起こした。
激しい頭痛に、眉根を寄せる。
窓際の椅子に座る駿介が、じっと私を見ていた。
見つめている、というよりは、睨んでいるといった表現がしっくりくる、眼差しで。
「駿介?」
部屋を見回すと、そこはホテルの一室だった。それも、ラブホテルらしい。
なぜなら、白い壁に赤いバラの絵が描かれていて、カーテンも赤。壁には自動販売機も見えた。
新居に帰ったんじゃなかったっけ……?
「タクシーに乗ってすぐに眠ったから、ラブホに連れて来た」
「え? なんで?」
「お仕置きが、必要だから」
椅子から立ち上がると、駿介が三歩前進し、ベッドに片膝を載せた。彼の手にはペットボトルの水。
「おしお……き?」
「うん」
駿介はペットボトルを開け、自らの口に含むと、私に口づけた。
突然のことにギュッと唇を結んでいると、お構いなしに彼の唇から水がこぼれた。ほんのわずかだけ、唇の隙間から喉に滴る。
頬から伝った水が、シーツに沁み込んでいく。
「ほら、ちゃんと口を開けないから」
そう言うと、彼はもう一度水を含み、口づけた。
唇を開いて待っていた私の口内が、冷えた水で満たされる。
「ん……っ」
水を飲み込む。
「もっと欲しい?」
「う……ん」
「じゃあ、おねだりして?」
「え?」
指先で顎を押し上げられ、唇が触れそうな距離で駿介を見上げた。
「可愛く、いやらしくおねだりして?」
低く、少しだけ甘い言葉に、腰から背筋を撫で上げられたようなくすぐったさと、快感に痺れる。
可愛いか、いやらしいかなんてわからない。
ただ、欲しいと思ったから。
「ちょー……だい」
言いながら首を伸ばし、私は彼の唇を食んだ。
「みず……は?」
僅かな唇の隙間から、駿介が言った。
「後で……ね?」
彼の首に手を回すと、私が抱き寄せるより先に、彼に抱き締められた。そのまま、仰向けにベッドに倒れ込む。
駿介の舌が私の唇を割入るのと同時に、私の腰を抱いていた彼の手が、左右バラバラに動き出す。
片手は胸を撫で上げ、片手はスカートをたくし上げる。
太腿に感じるカレは、既に硬く、ジーンズを押し上げていた。
駿介が私の服を脱がそうとするように、私も彼の服に手をかける。が、その手を制止されてしまった。
「お仕置きだからね」
「え?」
駿介はニッと口角を上げて意地悪な笑みを浮かべる。
「俺は怒ってるんだよ」
駿介は私の両手を頭の上に移動させ、両手首を重ねる。
「酔って、俺以外の男の髪に触れて、無防備でエロい表情を見せた」
「それはっ――!」
私の言い訳は彼の唇でかき消される。
「――手、動かしちゃダメだよ?」
「え?」
「他の男に触れた手で、触られたくないから」
顔は笑っているのに、目はとても冷たくて、ゾッとした。
「だから、今夜は俺に触れないで?」
「しゅん……すけ?」
「俺が麻衣に触れるから」
駿介は上体を起こすと、私の膝頭を掴み、グイッと押し上げた。
「駿介!」
思わず頭上の両手で彼の手を掴もうとした。
「麻衣」
静かに名前を呼ばれて、手が止まる。
「触れちゃダメだよ?」
恐怖は感じない。
けれど、従わなければと思った。
駿介を怒らせるようなことを、私はした。
彼が酔って、私以外の女の髪に触れたら、私だって怒る。
元の頭上に両手を上げるのは抵抗があり、掌を上にして顔の横に置いた。
0
お気に入りに追加
269
あなたにおすすめの小説
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

お酒の席でナンパした相手がまさかの婚約者でした 〜政略結婚のはずだけど、めちゃくちゃ溺愛されてます〜
Adria
恋愛
イタリアに留学し、そのまま就職して楽しい生活を送っていた私は、父からの婚約者を紹介するから帰国しろという言葉を無視し、友人と楽しくお酒を飲んでいた。けれど、そのお酒の場で出会った人はその婚約者で――しかも私を初恋だと言う。
結婚する気のない私と、私を好きすぎて追いかけてきたストーカー気味な彼。
ひょんなことから一緒にイタリアの各地を巡りながら、彼は私が幼少期から抱えていたものを解決してくれた。
気がついた時にはかけがえのない人になっていて――
表紙絵/灰田様
《エブリスタとムーンにも投稿しています》

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
禁断溺愛
流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。
【ルーズに愛して】指輪を外したら、さようなら
深冬 芽以
恋愛
インテリアデザイナーの相川千尋《あいかわちひろ》は、よく似た名前の同僚で妻と別居中の有川比呂《ありかわひろ》と不倫関係にある。
ルールは一つ。
二人の関係は、比呂の離婚が成立するまで。
その意味を深く考えずに関係を始めた比呂だったが、今となっては本気で千尋を愛し始めていた。
だが、比呂の気持ちを知っても、頑なにルールを曲げようとしない千尋。
千尋と別れたくない比呂は、もう一つのルールを提案する。
比呂が離婚しない限り、絶対に別れない__。
【ルーズに愛して】シリーズ
~登場人物~
相川千尋《あいかわちひろ》……O大学ルーズサークルOG
トラスト不動産ホームデザイン部インテリアデザイン課主任
有川比呂《ありかわひろ》……トラスト不動産ホームデザイン部設計課主任
千尋の同僚
結婚四年、別居一年半の妻がいる
谷龍也《たにたつや》……O大学ルーズサークルOB
|Free Style Production《フリー スタイル プロダクション》営業二課主任
桑畠《くわはた》あきら……O大学ルーズサークルOG
市役所勤務、児童カウンセラー
小笠原陸《おがさわらりく》……O大学ルーズサークルOB
|Empire HOTEL《エンパイアホテル》支配人
小笠原春奈《おがさわらはるな》……陸の妻
|Empire HOTEL《エンパイアホテル》のパティシエ
新田大和《にったやまと》……O大学ルーズサークルOB
新田設計事務所副社長
五年前にさなえと結婚
新田《にった》さなえ……O大学ルーズサークルOG
新田大斗《にっただいと》……大和とさなえの息子
亀谷麻衣《かめやまい》……O大学ルーズサークルOG
楠行政書士事務所勤務
婚活中
鶴本駿介《つるもとしゅんすけ》……楠行政書士事務所勤務
エリート課長の脳内は想像の斜め上をいっていた
ピロ子
恋愛
飲み会に参加した後、酔い潰れていた私を押し倒していたのは社内の女子社員が憧れるエリート課長でした。
普段は冷静沈着な課長の脳内は、私には斜め上過ぎて理解不能です。
※課長の脳内は変態です。
なとみさん主催、「#足フェチ祭り」参加作品です。完結しました。
アダルト漫画家とランジェリー娘
茜色
恋愛
21歳の音原珠里(おとはら・じゅり)は14歳年上のいとこでアダルト漫画家の音原誠也(おとはら・せいや)と二人暮らし。誠也は10年以上前、まだ子供だった珠里を引き取り養い続けてくれた「保護者」だ。
今や社会人となった珠里は、誠也への秘めた想いを胸に、いつまでこの平和な暮らしが許されるのか少し心配な日々を送っていて……。
☆全22話です。職業等の設定・描写は非常に大雑把で緩いです。ご了承くださいませ。
☆エピソードによって、ヒロイン視点とヒーロー視点が不定期に入れ替わります。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる