【ルーズに愛して】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

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【番外編】最後の夜、最初の夜

最後の夜 -9

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「ん……」

 喉が渇く。

 寝返りをすると、頭がズキンッと痛んだ。

 ゆっくりと瞼を持ち上げる。

 顔中がぴきぴきしている。



 メイク……落としてない。



 とにかく、喉が渇いていた。

「お目覚めか」

 低い声に、私は慌てて身体を起こした。

 激しい頭痛に、眉根を寄せる。

 窓際の椅子に座る駿介が、じっと私を見ていた。

 見つめている、というよりは、睨んでいるといった表現がしっくりくる、眼差しで。

「駿介?」

 部屋を見回すと、そこはホテルの一室だった。それも、ラブホテルらしい。

 なぜなら、白い壁に赤いバラの絵が描かれていて、カーテンも赤。壁には自動販売機も見えた。



 新居に帰ったんじゃなかったっけ……?



「タクシーに乗ってすぐに眠ったから、ラブホここに連れて来た」

「え? なんで?」

「お仕置きが、必要だから」

 椅子から立ち上がると、駿介が三歩前進し、ベッドに片膝を載せた。彼の手にはペットボトルの水。

「おしお……き?」

「うん」

 駿介はペットボトルを開け、自らの口に含むと、私に口づけた。

 突然のことにギュッと唇を結んでいると、お構いなしに彼の唇から水がこぼれた。ほんのわずかだけ、唇の隙間から喉に滴る。

 頬から伝った水が、シーツに沁み込んでいく。

「ほら、ちゃんと口を開けないから」

 そう言うと、彼はもう一度水を含み、口づけた。

 唇を開いて待っていた私の口内が、冷えた水で満たされる。

「ん……っ」

 水を飲み込む。

「もっと欲しい?」

「う……ん」

「じゃあ、おねだりして?」

「え?」

 指先で顎を押し上げられ、唇が触れそうな距離で駿介を見上げた。

「可愛く、いやらしくおねだりして?」

 低く、少しだけ甘い言葉に、腰から背筋を撫で上げられたようなくすぐったさと、快感に痺れる。

 可愛いか、いやらしいかなんてわからない。

 ただ、欲しいと思ったから。

「ちょー……だい」

 言いながら首を伸ばし、私は彼の唇を食んだ。

「みず……は?」

 僅かな唇の隙間から、駿介が言った。

「後で……ね?」

 彼の首に手を回すと、私が抱き寄せるより先に、彼に抱き締められた。そのまま、仰向けにベッドに倒れ込む。

 駿介の舌が私の唇を割入るのと同時に、私の腰を抱いていた彼の手が、左右バラバラに動き出す。

 片手は胸を撫で上げ、片手はスカートをたくし上げる。

 太腿に感じるカレは、既に硬く、ジーンズを押し上げていた。

 駿介が私の服を脱がそうとするように、私も彼の服に手をかける。が、その手を制止されてしまった。

「お仕置きだからね」

「え?」

 駿介はニッと口角を上げて意地悪な笑みを浮かべる。

「俺は怒ってるんだよ」

 駿介は私の両手を頭の上に移動させ、両手首を重ねる。

「酔って、俺以外の男の髪に触れて、無防備でエロい表情かおを見せた」

「それはっ――!」

 私の言い訳は彼の唇でかき消される。

「――手、動かしちゃダメだよ?」

「え?」

「他の男に触れた手で、触られたくないから」

 顔は笑っているのに、目はとても冷たくて、ゾッとした。

「だから、今夜は俺に触れないで?」

「しゅん……すけ?」

「俺が麻衣に触れるから」

 駿介は上体を起こすと、私の膝頭を掴み、グイッと押し上げた。

「駿介!」

 思わず頭上の両手で彼の手を掴もうとした。

「麻衣」

 静かに名前を呼ばれて、手が止まる。

「触れちゃダメだよ?」

 恐怖は感じない。

 けれど、従わなければと思った。

 駿介を怒らせるようなことを、私はした。

 彼が酔って、私以外の女の髪に触れたら、私だって怒る。

 元の頭上に両手を上げるのは抵抗があり、掌を上にして顔の横に置いた。
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