【ルーズに愛して】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

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【番外編】最後の夜、最初の夜

最後の夜 -4

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「明後日、結婚式! それはおめでとう!」

 私の正面に座ったコウが言った。

 ノリが大和に似ていて、陽気な雰囲気。

「今が幸せいっぱいって感じ? いいね。いいなぁ」

「こいつ、デキ婚だったから式挙げてないんだよ」と、コウがカズに親指を向ける。

「そうなんだ」

「こいつの嫁さん、すっげー美人で、あ、タイプ的にはあきらに似てるかな。で、三年経った今でもウエディングドレス着たとこ見たいってうるさくってさ」

「今からでも式、しないの?」

「子供が生まれるまでは予定してたんだけどさ。生まれたら、とにかく忙しいし、式の費用も勿体ないって言われて」と、カズが大袈裟に泣き真似した。

「奥さん、しっかり者だね」と、さなえが話しを合わせる。

「三年前ってことは、お子さんは二歳くらい?」

「うん! そう。息子なんだけど、もう、ちょーママっ子でさ。風呂も布団もママとじゃなきゃヤダっつって」

「で、レスなんだよな?」と、あきらの隣に座るマキが言った。

「言うなよ! 初対面の女性の前で」と、カズがバシッとマキの腕を叩いた。

 マキはお酒に強いらしく、他の三人はビールなのに、一人だけウイスキーを飲んでいる。スポーツをしているかしていたのか、筋肉質な体つきなのは服の上からでもわかる。

「折角だから、同世代の女性の意見を聞いたらどうだ?」

「いやいや、一歩間違ったら訴えられそうな話題――」

「――いいじゃない。ね? レスの解消法、アドバイスしてあげたら? さなえ」

 あきらがグラスに口をつけたまま、言った。

「え? さなえちゃんもそうなの?」と、カズが前のめりで言った。

「え? いや、あの――」

「――レスを解消して、めでたく二人目が出来たの」

「あきら!」

 さなえは恥ずかしそうにあきらの腕を掴む。

「お喋りするくらい、いいじゃない。どーせ、もう会うことないんだし」

「そうそう」と、カズが頷く。

「けど――」

「――このままじゃ二人目どころじゃないんだよ。お願い! ヒントだけでも!」

 かなり切実に悩んでいるようで、カズは顔の前で両手を組み、祈るようにさなえに言った。

「我が家の一人っ子危機を助けると思って!」

 どうなることかと思ったけれど、さすがは元カウンセラーだ。さなえに促されるままに、カズは奥さんとの関係を語り、自分の気持ちを語る。

 うんうんと話を聞くさなえを見て、あきらが微笑んだ。

 あきらもきっと、私と同じことを思っているんだと思った。

「で? まいは? ダンナ、どんなん?」と、コウがピーナッツを口に放りながら言った。

「年下」とだけ、答える。

「へぇ。俺の嫁さん、年上……だった」

「そうなんだ? ん? だった?」

「そ。別居中。で、今日は傷心の俺を慰める会」

 コウは何でもないことのように笑った。が、彼は左手の親指で薬指の結婚指輪を擦っていて、その仕草がなんだか寂しかった。

「そうなんだ……」

「ごめんね? これから結婚するのに、縁起悪いね」

「ううん? 奥さんといくつ違うの?」

「十。まいは?」

「七」

「じゃ、まだ二十代か」

「うん。もうすぐ二十七」

「俺が結婚した時と同じ年だ」

「そうなんだ。お子さんは?」

「いない。嫁さん、バリバリのキャリアウーマンでさ。最初っから子供は作らないって約束してたんだよね」

 コウはハイペースでビールを体内に流し込んでいく。

 傷心だって言ってたから、コウは奥さんと別れたくないのかもしれない。

 彼は四人の中で一番若く見えた。

 会社勤めしている人には珍しく、髪色は明るく、耳が隠れるほどの長さでセンター分け。時折邪魔くさそうに髪を耳にかけている。

 正面に座った時は、チャラそうだなと思った。
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