【ルーズに愛して】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

文字の大きさ
上 下
161 / 179
【番外編】最後の夜、最初の夜

最後の夜 -3

しおりを挟む

「ああ。違うでしょ。ん? 違わないか? どっちにしても、見られてるのは私たちの話に興味があるからじゃなくて、私たちに興味があるから、でしょ?」

 千尋が、男性のテーブルを見ながら言った。

 男性の一人も千尋を見て、微笑む。

「けど、あっちも全員既婚者でしょ? ナンパ目的じゃないよね」と、あきらも堂々と男性たちに顔を向ける。

「ナンパ!? 私たちだって指輪してるし、それはないんじゃ――」

「――ワンナイトのお誘いだったらどうする?」と言いながら、千尋が男性たちに手を振った。

「千尋!」

「冗談よ」

「千尋が言うと冗談に聞こえない!」

「失礼な。尻軽みたいに言わないでよ」

「そうじゃなくて! 私は――」

「――麻衣とさなえが遊び慣れてないのはわかってるから」

「ちょっと! 私は慣れてるみたいな言い方、やめてよ」と、あきら。

「ナンパをかわせるくらいには慣れてるでしょ?」

「え? そうなの? あきら、ナンパされること多いの?」と、さなえが食いつく。

「こういう、Sっぽい顔が好きな男って、結構いるのよね」

「誰がS顔よ」と、あきらが梅酒を飲み干す。

 軽く手を上げながらバーテンダーに声をかけ、同じものを注文する。

「みんなは?」

 聞かれて、それぞれ同じものを注文した。

「あと、ナッツとかチーズとか、適当に盛り合わせで」

「それ、俺らに奢らせてよ」

 バーテンダーの背後からにょきっと顔を出した男性は、すごく背が高かった。

 きっと、百九十センチ以上、あると思う。

 その男性はメニューを見ながらつまめるものをいくつか注文した。

「あっちの広いテーブルに移ってもいいかな」

 男性が指さしたのは、窓際の、レンガ風のパーテーションで仕切られた半個室の席。

 バーテンダーは頷き、カウンターに戻って行く。

「あっちで一緒に飲みませんか?」

「可愛い娘自慢に付き合ってくれるの?」と、千尋が言った。

 結婚指輪が見えるように、左手で髪を掻き上げながら。

「うちのお姫様の話も聞いてもらえます?」と、男性が微笑んだ。

 私とさなえがハラハラしながら様子を見ていると、千尋とあきらが目配せした。

「ご厚意に甘えましょ」

「え? 千尋?」

「飲みながらちょっとお喋りするだけよ」

「だって――」

「――誓ってお喋りだけです」と、男性が右手を胸に当て、左手を顔の前に上げた。

 薬指には少しごつめの指輪。

「俺らみんな、奥さん愛してますから」



 それなら、どうして他の女と飲もうとするの?



 私の心の声が聞こえたのか、男性はフッと笑った。

「ほんの少しの後ろめたさって、夫婦円満の秘訣だったりするんですよ」

 男性の後ろでは、他の男性が頷いている。

 バーテンダーが戻って来て、テーブルの上のものを移動し始め、私たちもバッグを持って席を離れた。

 楕円形のテーブルを囲むソファに、男性四人と女性四人が並んで座った。千尋とあきらが端に座り、男性と隣になった。

 改めて乾杯し、簡単な自己紹介をする。下の名前と、年齢、仕事。

 千尋の隣から、テツ、コウ、カズ、マキと名乗った。四人は大学時代の友人で、全員三十三歳。

 私たちに声をかけたのは、テツで、偶然にも千尋と同業者だった。同じ、女の子の親ということもあって、写メを見せ合ったり、仕事の話で盛り上がる。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

お酒の席でナンパした相手がまさかの婚約者でした 〜政略結婚のはずだけど、めちゃくちゃ溺愛されてます〜

Adria
恋愛
イタリアに留学し、そのまま就職して楽しい生活を送っていた私は、父からの婚約者を紹介するから帰国しろという言葉を無視し、友人と楽しくお酒を飲んでいた。けれど、そのお酒の場で出会った人はその婚約者で――しかも私を初恋だと言う。 結婚する気のない私と、私を好きすぎて追いかけてきたストーカー気味な彼。 ひょんなことから一緒にイタリアの各地を巡りながら、彼は私が幼少期から抱えていたものを解決してくれた。 気がついた時にはかけがえのない人になっていて―― 表紙絵/灰田様 《エブリスタとムーンにも投稿しています》

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

禁断溺愛

流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。

アダルト漫画家とランジェリー娘

茜色
恋愛
21歳の音原珠里(おとはら・じゅり)は14歳年上のいとこでアダルト漫画家の音原誠也(おとはら・せいや)と二人暮らし。誠也は10年以上前、まだ子供だった珠里を引き取り養い続けてくれた「保護者」だ。 今や社会人となった珠里は、誠也への秘めた想いを胸に、いつまでこの平和な暮らしが許されるのか少し心配な日々を送っていて……。 ☆全22話です。職業等の設定・描写は非常に大雑把で緩いです。ご了承くださいませ。 ☆エピソードによって、ヒロイン視点とヒーロー視点が不定期に入れ替わります。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しております。

【ルーズに愛して】指輪を外したら、さようなら

深冬 芽以
恋愛
 インテリアデザイナーの相川千尋《あいかわちひろ》は、よく似た名前の同僚で妻と別居中の有川比呂《ありかわひろ》と不倫関係にある。  ルールは一つ。  二人の関係は、比呂の離婚が成立するまで。  その意味を深く考えずに関係を始めた比呂だったが、今となっては本気で千尋を愛し始めていた。  だが、比呂の気持ちを知っても、頑なにルールを曲げようとしない千尋。  千尋と別れたくない比呂は、もう一つのルールを提案する。  比呂が離婚しない限り、絶対に別れない__。 【ルーズに愛して】シリーズ ~登場人物~  相川千尋《あいかわちひろ》……O大学ルーズサークルOG                 トラスト不動産ホームデザイン部インテリアデザイン課主任                   有川比呂《ありかわひろ》……トラスト不動産ホームデザイン部設計課主任                千尋の同僚                結婚四年、別居一年半の妻がいる  谷龍也《たにたつや》……O大学ルーズサークルOB              |Free Style Production《フリー スタイル プロダクション》営業二課主任  桑畠《くわはた》あきら……O大学ルーズサークルOG               市役所勤務、児童カウンセラー  小笠原陸《おがさわらりく》……O大学ルーズサークルOB                 |Empire HOTEL《エンパイアホテル》支配人    小笠原春奈《おがさわらはるな》……陸の妻                   |Empire HOTEL《エンパイアホテル》のパティシエ  新田大和《にったやまと》……O大学ルーズサークルOB                新田設計事務所副社長                五年前にさなえと結婚  新田《にった》さなえ……O大学ルーズサークルOG  新田大斗《にっただいと》……大和とさなえの息子  亀谷麻衣《かめやまい》……O大学ルーズサークルOG               楠行政書士事務所勤務               婚活中  鶴本駿介《つるもとしゅんすけ》……楠行政書士事務所勤務

何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。

青花美来
恋愛
【幼馴染×シークレットベビー】 東京に戻ってきた私には、小さな宝物ができていた。

処理中です...