【ルーズに愛して】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

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17.濡れる身体、溺れる心

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「我儘を言っているのはわかってる。あきらにも仕事があって、それを辞めて、みんなとも離れてついて来てくれなんて、都合良過ぎなのも。だけど、頼む。ついてきて欲しい。俺のそばにいて欲しい。一度でいいから、あきらの意志で俺を求めてもらいたい」

 龍也の言葉に、胸が熱くなる。

 自分に向けられた言葉じゃないのに、嬉しくなってしまう。

 大好きな二人に、幸せになってもらいたい。

 この場にいる全員が、そう思っていることは間違いない。

『意気地なしのあきらには、無理よ』

 静寂を破ったのは、千尋の声。

『意気地なしで、素直じゃなくて、頑固だもの。龍也がここまで言ってるのに即答できないのがいい証拠よ。龍也、こんな女さっさと見切り付けて、釧路でもっといい女を見つけなよ。あきらとは違って、全力で龍也を求めてくれる素直な――』

「――千尋だけには言われたくないわ!」

『はぁ? 事実じゃない! どーせあきらには、龍也について行く覚悟なんて――』

「――ついて行くわよ!!」

 興奮気味に言ったあきらの瞳が揺れているのを、私は見逃さなかった。

 大粒の涙が頬を伝うさまも。

「他の女になんか……渡さないわよ」

 あきらは手の甲でグイッと涙を拭うと、大きく深呼吸をした。

「さなえ、ペン、貸して」

「え? あ、うん」

 ペンを差し出したのは、陸だった。黒光りした、高級そうなペンの蓋を取り、あきらに差し出す。

 あきらはペンを受け取り、婚姻届に記入していく。

 それを見つめる龍也の目にも、涙が浮かんでいた。真っ赤な顔で頬を緩ませている。

「婚姻届、書いたわよ! 千尋、さっさと帰って来なさい!! あんたにだけは、意気地なし呼ばわりされたくない!!!」

 龍也はペンを置いたあきらの頭を自分の胸に抱き寄せると、嬉々として婚姻届を畳んでしまった。

 あきらは恥ずかしさに俯いている。

「とりあえず、千尋。今どこにいるか言え」

 陸が低い声で静かに言った。

『……帯広の実家』

 聞くなり、龍也が立ち上がった。

 あきらの腕を引き上げる。

「あきら、行こう」

「へっ!?」

「俺ら、実家に行ってサインもらって来るから」

 そう言うと、龍也は子供みたいな笑顔であきらの手を握った。

「実家、って――」

「あと、よろしく!」

「ちょ、龍也!」

「千尋! 帯広土産よろしくな」

『はいはい。おめでとう、龍也』

 千尋はかなり不満そうだったが、誰もが言い逃した『おめでとう』を真っ先に口にした。

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