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17.濡れる身体、溺れる心
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『もしもし?』
全員が顔を見合わせる。
「千尋?」
『うん』
彼女のいつもと変わらない声にホッとする。
「今、平気?」と、さなえ。
『うん。どうした?』
「直接話したくて」
『あ、さっきのメッセだけど、大和は浮気なんか――』
「――それはどうでもいいの」
さなえの言葉に、大和が『えっ!?』って表情で妻を見る。さなえはそれに気づいてか気づかずか、完全スルー。
「千尋、どうしたの?」
『……なにが?』
「どうして誰にも何も言わずにいなくなっちゃうのよ」
みんなが唾を飲む音が聞こえそうだ。
電話を切られませんようにと祈る思い。
『聞いちゃった?』
「うん。大和が最近連絡してたのって、千尋だったんでしょ?」
『うん』
「みんな、心配してるよ?」
『……うん』
「どこにいるの?」
『……』
「千尋!」
『お願い。しばらく考えたいことがあるの。ちゃんと……帰るから』
「子供が生まれたら? それとも、処分したら?」
さなえの言葉に、一瞬呼吸を忘れた。
『処分する』なんて言い方、さなえらしくない。だから、わざとそう言って、千尋を思い留めようとしているとわかる。わかるけれど、胸が痛んだ。
「帰って来て」と、さなえが言った。
お願いというよりは、命令に近い口調で。
『しばらくしたら――』
「――しばらくっていつよ!?」
痺れを切らして言ったのは、あきら。
すぐに、ハッとした表情をしたけれど、すでに遅い。
『あきら? そこにいるの?』
「いるわよ」
『もしかして、みんなも?』
「おう、いるぞ」と、大和。
「当たり前だろ」と、陸。
「千尋、元気?」と、私。
「どこにいるんだよ?」と、龍也。
『大袈裟なのよ! 言っとくけど! 死のうなんて考えてないわよ?』
「わかってるわよ! それでも、いきなり連絡が取れなくなったら心配するに決まってるでしょ!? 何やってんのよ!」
『だから! 大袈裟なの!! お正月に顔を出せなかったから、休み取って実家に来ただけよ』
「会社を辞めて、でしょ! この期に及んで嘘つく気!?」
二人の声が大きくなり、口調もきつくなっていく。
『なんで知ってんのよ!』
あきらがそれだけ千尋を心配しているのはわかるけれど、いつ、千尋が電話を切ってしまわないかとハラハラする。
「何だっていいでしょ!? とにかく、早く帰って来い! 有川さんのこととか、子供のこととか、何でも聞くから!」
『偉そうなこと言わないでよ! 私の心配より、龍也とのことを心配しなさいよ! この期に及んで龍也から逃げ回ってる臆病者のクセに!!』
「臆病者は千尋でしょ!? 有川さんから逃げ回って!」
『あきらにだけは言われたくないわよ!! いつまでも勿体ぶってたら龍也に愛想尽かされるんじゃない? いつまでもうじうじしてないで、さっさとまとまんなさいよ!』
「大きなお――」
「――だったら!」と、龍也が割って入った。
「俺とあきらがまとまったら、帰って来い」
『は?』
「あきらが覚悟を決めて俺を受け入れたら、千尋も覚悟を決めて帰って来い」
さすが龍也、と思った。
千尋の性格からすると、挑発に乗ってくるとは思う。それに、先週の様子からすると、あきらと龍也は既に付き合っているようだし、千尋は帰って来るしかない。
全員が顔を見合わせる。
「千尋?」
『うん』
彼女のいつもと変わらない声にホッとする。
「今、平気?」と、さなえ。
『うん。どうした?』
「直接話したくて」
『あ、さっきのメッセだけど、大和は浮気なんか――』
「――それはどうでもいいの」
さなえの言葉に、大和が『えっ!?』って表情で妻を見る。さなえはそれに気づいてか気づかずか、完全スルー。
「千尋、どうしたの?」
『……なにが?』
「どうして誰にも何も言わずにいなくなっちゃうのよ」
みんなが唾を飲む音が聞こえそうだ。
電話を切られませんようにと祈る思い。
『聞いちゃった?』
「うん。大和が最近連絡してたのって、千尋だったんでしょ?」
『うん』
「みんな、心配してるよ?」
『……うん』
「どこにいるの?」
『……』
「千尋!」
『お願い。しばらく考えたいことがあるの。ちゃんと……帰るから』
「子供が生まれたら? それとも、処分したら?」
さなえの言葉に、一瞬呼吸を忘れた。
『処分する』なんて言い方、さなえらしくない。だから、わざとそう言って、千尋を思い留めようとしているとわかる。わかるけれど、胸が痛んだ。
「帰って来て」と、さなえが言った。
お願いというよりは、命令に近い口調で。
『しばらくしたら――』
「――しばらくっていつよ!?」
痺れを切らして言ったのは、あきら。
すぐに、ハッとした表情をしたけれど、すでに遅い。
『あきら? そこにいるの?』
「いるわよ」
『もしかして、みんなも?』
「おう、いるぞ」と、大和。
「当たり前だろ」と、陸。
「千尋、元気?」と、私。
「どこにいるんだよ?」と、龍也。
『大袈裟なのよ! 言っとくけど! 死のうなんて考えてないわよ?』
「わかってるわよ! それでも、いきなり連絡が取れなくなったら心配するに決まってるでしょ!? 何やってんのよ!」
『だから! 大袈裟なの!! お正月に顔を出せなかったから、休み取って実家に来ただけよ』
「会社を辞めて、でしょ! この期に及んで嘘つく気!?」
二人の声が大きくなり、口調もきつくなっていく。
『なんで知ってんのよ!』
あきらがそれだけ千尋を心配しているのはわかるけれど、いつ、千尋が電話を切ってしまわないかとハラハラする。
「何だっていいでしょ!? とにかく、早く帰って来い! 有川さんのこととか、子供のこととか、何でも聞くから!」
『偉そうなこと言わないでよ! 私の心配より、龍也とのことを心配しなさいよ! この期に及んで龍也から逃げ回ってる臆病者のクセに!!』
「臆病者は千尋でしょ!? 有川さんから逃げ回って!」
『あきらにだけは言われたくないわよ!! いつまでも勿体ぶってたら龍也に愛想尽かされるんじゃない? いつまでもうじうじしてないで、さっさとまとまんなさいよ!』
「大きなお――」
「――だったら!」と、龍也が割って入った。
「俺とあきらがまとまったら、帰って来い」
『は?』
「あきらが覚悟を決めて俺を受け入れたら、千尋も覚悟を決めて帰って来い」
さすが龍也、と思った。
千尋の性格からすると、挑発に乗ってくるとは思う。それに、先週の様子からすると、あきらと龍也は既に付き合っているようだし、千尋は帰って来るしかない。
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