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17.濡れる身体、溺れる心
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しおりを挟む「千尋さん?」
髪を拭いたタオルを首に巻き、駿介がソファにもたれるように座った。なんの躊躇いもなく、ブサかわ猫を膝に乗せる。
テーブルの上には、コーヒーとスマホ。
「メッセ、送ったの」
「そっか」
駿介が少しぬるくなったコーヒーをすすった。
「さっきは……言えなかったけど、千尋さんは本当に有川さんが好きで、有川さんの幸せを願っていなくなったんだと思う」
「どうしてそう思うの?」
「有川さんが起こしたトラブルの相手って、昔千尋さんを酷く傷つけた男なんだって。そいつが、千尋さんのことを酷く言うのが許せなくて殴ったって、言ってた。だから、千尋さんは責任を感じてるって」
「そうなんだ……」
温められたお弁当をテーブルに置き、私は彼の正面に座ってパスタサラダの封を切った。駿介は弁当の蓋を開ける。
「いただきます」
「いただきます」
二人の声が重なって、二人で笑った。
余程お腹が空いていたようで、カルビとご飯が瞬く間に駿介の口に運ばれていく。お弁当一つでは足りなくて、おにぎりも食べていた。二つ。それから、私が食べなかったサンドイッチ。
「気持ちのいい食べっぷりだねぇ」
「すげー腹減ってるし、セックスしたらまた腹減るし」
事実だが、言葉にされると返事に困る。が、私は私で、脱いだ時にお腹がポッコリしているのが嫌で、サンドイッチを我慢したんだから、お互い様だ。
駿介がごみを片付け、私がカップを洗う。
なんだか、セックスするためにせっせと片付けているようで、恥ずかしくなる。
それでも、私は洗い物の後に歯磨きまでしているんだから、気合十分だ。
駿介は駿介で、買って来た紙袋の中身を取り出して封を切っている。
相変わらず外は雪が降り続いていて、陽が傾いたせいもあって寝室は薄暗くなっていた。
「はい、万歳」
ベッドの上で向かい合って、駿介が私のスウェットを持ち上げた。
私は大人しく万歳をする。
腕と首からスウェットが引き抜かれた時、僅かに身震いした。
「寒い?」
「……少し」
駿介が私の身体を抱き締める。
「一緒に暖まろう」
鎖骨の辺りにぬるりとした感触。それから、少しの痺れとチクリとした痛み。
「好きだよ……」
甘い囁きと、それに相反して下腹部を刺激する力強い猛り。
「だから、今までの男は全部忘れて」
「え?」
「俺も忘れるから。今、この瞬間から、俺には麻衣が全てだから。だから――」
「――駿介?」
「だから――っ! もう、陸さんのこと、忘れて」
喉の奥から絞り出すような、吐き出すような、悲鳴のような声に、私は肺を強く握られたように呼吸を忘れ、苦しさのあまり涙が零れた。
違う。
苦しいのは駿介だ――。
駿介は、陸と何があったか、過去のことも現在のことも聞かない。
違う。
聞きたくないんだ。
私はどれだけ愛されているのか。
私はその愛をどれだけ返せるのか。
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