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16.ひとりの夜に想うのは……
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しおりを挟む「とにかく、ちょっと様子見るか。いなくなって一週間? 十日? だろ? あきらの言うように、気分転換に旅行でも行ってんのかもしれないし、会社を辞めたんだから就職活動してんのかもしれないだろ」
「確かに。千尋のことだから、有川と会わずに済むような場所で仕切り直してるかもな」
結論として、ひとまずはそれぞれで千尋へのコンタクトを続けながら様子を見ることになった。
それから、身重のさなえには秘密にすることも確認した。
一週間後の土曜に、またこうして集まることにして、解散となった。
駿介に空いた缶の片付けを頼み、私は玄関でみんなを見送った。陸が何か言いたげに私を見ていたことには気づいていたが、私はみんなと同じように別れの言葉を言っただけだった。
急に静かになった部屋に、駿介と二人きり。私はブサかわ猫を抱き締めて、彼を正面から見据えた。
これ以上、誤解されるのも、何かや誰かに邪魔されるのも嫌だった。
だから、とにかく焦っていた。
そして、口をついて出た言葉は――。
「私、駿介が好きなの!」
唐突にもほどがある。
駿介は目を見開いて、私を見ていた。
「陸のことは……確かに前は好きだったけど、今は――っ! 今は、駿介が好きなの。今日は、それを伝えようと思って会っていたの」
無駄に言葉に力が入ってしまう。
私は肺を酸素で満たし、ようやく最後の言葉を絞り出す。
「お試しじゃなく、私を駿介の彼女にして」
「麻衣さ――」
「――っ駿介は、もう、私のこといらなくなっちゃった? もう、フラフラしないからっ! だから――」
必死になり過ぎて、きっと傍から見れば痛い女になってる。三十も過ぎて、年下の男に、捨てないでくれと縋っているのだから。
それでも、今は二人きりで、見ている人なんかいなくて、いたとしても、引き下がれはしない。
「――もうっ、独りは嫌なの。駿介にいらないって言われてからずっと、毎晩独りで駿介のことばっかり考えてた。寂しくて、苦しくて、堪らなかった。駿介のことばかり想ってた。だから――っ!」
「――俺も同じだよ」
面食らったように私を見下ろしていた駿介が、フッと微笑んだ。
「俺は、四年前からずっと、だけど」
ほんの一瞬だけ唇同士が触れて、離れる。
「初めて麻衣を見て、好きになった瞬間から毎晩、ひとりの夜に想うのは麻衣のことばっかだよ。昨日も、今日も、きっと十年後も」
「違うよ」
「……?」
「今日からはひとりじゃないもの」
ははっと、駿介が笑った。
顔をクシャッとさせて。
可愛いな、と思った。
言えば怒るだろうから、言わないけれど。
だから、言っても怒られないことを言った。
「私の胸で窒息しそうなほど、くっついて離れないんだから」
精いっぱい背伸びをしても届かなくて、私は駿介の腕を引っ張って、ようやく彼の唇に届いた。
チュッと音をたてて口づけた。
「私の身体が濡れなくても、そばにいて――」
窒息しそうなほどきつく抱き締められたのは、私の方だった。
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