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16.ひとりの夜に想うのは……
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しおりを挟むとはいえ、基弘の時とは違う。
陸と食事はした。プロポーズ、もされた。プレゼントももらった。
けれど、決定的に駿介を裏切るような行為は断じてしていない。
まだ、遅くない!
誤解を解かなければ。
けど、なんて言うの?
陸と向き合わないままでは、何を言っても綺麗ごとだ。
まずは、陸に気持ちを伝えなければ。
なんて……?
陸のことは好きだ。
けれど、それが全てを捨てて一緒にイギリスに行こうと思えるほどの愛情なのかと言えば、違うと思う。
じゃあ、陸とはこれっきり……?
そう思うと、胸が痛む。
陸と駿介の両方にいい顔は出来ない。
私は、どうしたいの――!
そんなことを、悶々と悩んでいるうちに、気づけばクリスマスイヴを一人で過ごし、あっと言う間に年の瀬。
陸からは時々メッセージが届くけれど、内容はとにかく忙しいことと、年が明けたら休みを取るから会おう、ということ。
駿介からの連絡は一切ない。
事務所が違うから気まずい時に顔を合わせなくて済むのは助かるが、そうしている間に彼の気持ちが離れていってしまうと思うと、どんなに気まずくても顔を合わせれば何かが変わるのにと思わずにはいられない。
仕事納めの忘年会では会えるよね。
北と南の合同で行われる忘年会だけは、絶対全員参加。
顔、見れる。
駿介が入所してから、丸一週間も全く顔を合わせず、連絡も取り合わないなんて初めてだった。
せめて誤解は……解かなきゃ。
そう思っていたのに。
忘年会の日。
「所長がインフルでダウンしたから、忘年会は新年会に変更だって」
朝一で不破さんに告げられる。
「仕事始めの四日の夜は空けておいてって」
「わかり……ました」
なんてタイミングの悪いこと。
こうして、私と駿介の会えない日々は年明けまで持ち越されることになった。
正月は例年通り実家に帰り、本家ブサかわ猫のブーちゃんで癒された。高齢のブーちゃんは、最近食欲が落ちて丸くなっている時間が多いらしい。
「死んでも連絡しないわよ」と、帰り際に母が言った。
「騒がしいのが嫌いなんだから、ブーちゃん。麻衣が大泣きしたらブーちゃん、化け猫になっちゃいそう」
ブーちゃんはもともと野良猫で、家の庭の片隅に放置されていた、私が小学生の時に使っていたソリの中で丸くなって衰弱しているのを父が見つけた。その当時で既に子猫ではなく、それから十三年は我が家にいる。だから、ハッキリとした年齢はわからないが、高齢なのは確か。
母の言葉に、私は私を見送りに出て来たブーちゃんをスマホで撮影した。
駿介に、見せたいな。
きっと、「ブサかわ猫が実在した!」って笑ってくれると思う。
この時の私はまだ、こんな他愛のない会話ができると、思っていた。
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