【ルーズに愛して】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

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16.ひとりの夜に想うのは……

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『心に他の男を住まわせてる女なんて、いらない』

 駿介の言葉を、幾度となく反芻する。



 いらないって……言われた。



 駿介は私を好きでいてくれる。


 何度となく囁かれる愛の言葉と、全身で私を求める彼の欲情に、いつの間にか安心しきっていた。

 だから、遠藤さんと会っていたことに私が腹を立てても、駿介は必死に謝ってくれるものとタカを括っていた。


 陸とのことを知っていたなんて……。



 自分のことを棚に上げて、駿介ばかりを責めるなんて最低だ。

「ふっ――……、う……」

 駿介の温もりが、身体中に残っている。

 彼の唇、掌、私を求める猛り。

 目を閉じれば、彼に抱かれていると錯覚できるほど、鮮明に覚えている。

 なのに、私はひとりで。

「しゅん……す――」

 一部始終を見ていたブサかわ猫の、私を見つめる表情が、呆れ顔にも、微笑みにも見える。私は乱れた服のまま、猫を抱き締めた。

 両手で、生きていたら窒息間違いなしの力で、強く。

「ううっ……」

 いい加減へたった猫に顔を押し付け、声を殺す。

 いい年をして、声を上げて泣くなんて痛すぎる。

 それでも、涙も嗚咽も止められない。

「うっ、うっ……。うーーー……」



 駿介に嫌われた。

 いらないって言われた。

 私を、『麻衣さん』って呼んでた。



 悲しみのあまり、自分の身体を呪う。



 どうして濡れないの――っ!

 駿介を受け入れていれば……。



 きっと、いや、絶対、そういう問題じゃない。

『あの人とシてみたらいい』

 駿介はそう言ったけれど、濡れても濡れなくても、試してしまったら駿介の元には戻れない。

 それくらい、わかる。



 あんなに大事にしてくれたのに……。



 駿介は、強引だし、かなりHだし、甘えたなのに時々頼もしくて、ずっと優しかった。

 強引でも、私が気乗りしない時は触れてこなかったし、触れる時はとことん優しかった。

 いつも私を気遣って、自分は限界まで我慢してトイレに駆け込むくせに、一度も私を急かしたり責めたりしなかった。

 時々、私が手や口でシてあげると、顔を歪ませて耐えて、耐えきれなくなってトロけた顔で昇りつめる彼を見ると、ちょっとした優越感に浸れた。

 駿介のこんな表情は私しか知らない、と。



 駿介の気持ちの上に胡坐をかいていたから、捨てられるんだ……。



 最初こそ戸惑ったけれど、駿介と一緒に居ると安心できたし、正直に言えば気分が良かった。

 年下の、一般的にイケメンに分類されるであろう駿介に愛されて、心地良かった。

 陸に抱かれて基弘に別れを告げた時、こんなに愛してくれる人を裏切った自分に恋愛は向かない、と思った。

 基弘に対する申し訳なさと、ずっと好きだった陸に抱かれた喜びで、恋愛を遠ざけた。

 けれど、二年して、駿介に告白されて、心から嬉しかった。

 彼が遊び半分で言っているのではないとわかっていたし、彼の誠実さというか、人柄の良さは一緒に働いていて疑う余地を感じさせなかった。



 なのに、また、傷つけた――。


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