【ルーズに愛して】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

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15.賭け

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 そんなことを考えながらフラフラしていたから、名前を呼ばれて大袈裟に驚いてしまった。

「駿介!」

「ひっ!」

「ひっど! 何よ、お化けでも見たような顔して」

 真綾だった。

 肩から大きなショップバッグを下げている。

「いや、お前のこと考えてたから、焦った」

「私のこと? なになに、年上彼女と上手くいってないの!?」と、真綾は楽しそうに俺の顔を覗きこむ。

「やだ、駿介。顔色悪いけど大丈夫?」

「ちょっと寝不足なだけ。お前は? 一人か?」

「そ! 彼氏へのクリスマスプレゼントを買いに来たの」

「そっか」

 この前の飲み会ではそんなことは言っていなかったから、何となく反応に困った。だが、考えれば別に不思議なことでも驚くことでもない。

 そもそも、俺と別れてすぐに、真綾には彼氏が出来ていた。

「駿介は? 一人?」

「ああ」

「ふぅん……」と言って、真綾がコートの袖を少しまくって腕時計を見る。

「ね! 暇ならお茶しない?」

「暇じゃ――」

「彼氏との待ち合わせまで少し時間があるのよ。付き合って!」

 ショップバッグを持っていない方の手で腕を掴まれ、俺は引きずられるようにして地下街のカフェに連行された。

 仁美さんが見たと言ったのは、この時の俺たちだろう。

 特別楽しそうにした覚えはない。

 ただ、真綾の恋人の話や、松田が帰って来たら馬場はどうするのか、なんて話をしただけだ。

 それから、昔話。

「クリスマスプレゼントは決まった?」

「え?」

「彼女へのプレゼントを見てたんでしょ?」

「……ああ」

「欲しいものは聞いたの?」

「……いや」

 真綾はカフェラテを飲み、口元に笑みを浮かべた。

「サプライズ?」

「……そういうわけじゃ……」

「私の時は、いつも聞いてたのに」

 迷うはずだ。

 言われてみれば、真綾と付き合っていた時の俺は、事前に欲しいものを聞いていた。聞かれた真綾も嫌な顔をしなかったし、自分で選んで失敗するよりもいいと思った。

「私が欲しいって言ったもののためにバイト頑張ってくれてたの、知ってたよ」

 思い返すと、格好悪いことこの上ない。

 彼女の欲しいものを聞いて、彼女と会う時間を削ってバイトをして、プレゼントを買う。

 さり気なくリサーチするとか、日頃から金を貯めるとか、考えたこともなかった。

「就職のことがなくてもいずれ疲れてたよね、駿介」

「どうかな」

「私の元カレが社会人だからって、無理してたもんね」

「……」

 そんなに無理してるのが態度に出ていたのだろうかと、恥ずかしくなる。

「今の彼女の前でも、無理してるんじゃないの?」

「は?」

「彼女が年上だから、甘えた年下キャラを作ってるとか」

 一昨日も言われた。祥平に。

「そんな、作ってるように見えるか?」

「うん。駿介って基本は頑固で我儘じゃない。私と付き合ってる時も、大人の余裕みたいなの作ってたけど」

 これも、祥平に言われた。
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