【ルーズに愛して】私の身体を濡らせたら

15．賭け

２

「結婚も考えてたらしい」と、祥平は口直しのコークハイを口に含んだ。

「え？」

「馬場。いつだったか酔った時に言ってた。十五万の指輪、今も捨てられないって」

「十五万？！」

「ああ。松田が就活で忙しい時に、バイトして貯めた金で買ったらしい。結局、渡せなかったけど、捨てられないって」

　驚いた。

　馬場と松田は、傍から見れば男女の関係というより親友のような二人で、一緒に居ても甘い空気を匂わせなかった。

「本当は泣いて縋ってでも別れたくなかったけど、松田は女々しい男が嫌いだから、最後まで笑ってるしかなかったってこぼしてたな」

「なんか……意外だな」

「な？　ま、確かに？　こんな馬みてぇなナリした男が、メェメェ泣いてたらドン引きだからな。潔く別れて正解だったのかもな」

　馬、は言い過ぎかもしれないが、確かに馬場は百九十センチの長身の上、高校時代に柔道部だったこともあって筋肉質。めそめそ泣く姿は想像できない。

「お前は？」

「ん？」

「無理してないか？」

「何を？」

「遠藤と付き合ってた時も背伸びしてた感はあったけど、今のお前も作ってるように見えるぞ？　年上の女に気に入られようと、年下を武器にしてるっつーか」

「そうか？　どっちかっつーと、これが俺の素じゃねーかって思ってるけど」

　俺は冷めきっただし巻き卵を口に入れた。

「どこがだよ。お前、もっと頑固で我儘だろ。そういうの我慢してると、続かねーんじゃね？」

　我慢、という言葉が、なぜかやけに胸につかえた。

　結局、置きそうにない馬場を二人で担いで、マンションまで送って行った。さすが、議員の秘書。馬場は駅近のタワーマンションに住んでいた。

　俺と祥平は馬場をベッドに寝かせると、力尽き、床に転がった。

　当然、目が覚めると身体中が痛い。

　結局、昼過ぎまで馬場の家でごろごろしていた。

　一度家に帰ってシャワーを浴び、食べる物が何もないことに気づいて家を出た。

　時刻は既に夕飯時で、俺の足はふらふらと麻衣の家に向かっていた。



　会いたいな……。



　最近、まともに顔を合わせていない。

　飲み会の後からやんわりと避けられているのはわかっていたし、しつこくして嫌われたくないと聞き訳よくしていた。が、確かに、祥平の言った通り、根が頑固で我儘な俺は我慢をしていた。

　麻衣に甘えるのは好きだ。

　麻衣が、少し呆れた顔で俺に微笑んでくれるのも、好きだ。

　だけど、時々は主導権を握りたい。



　だからって、連絡もなしに押しかけるのはマズいよな。



　麻衣のアパートの斜め向かいの小さな公園で足を止め、スマホを取り出す。

　十八時ともなると、既に辺りは暗い。そして、寒い。

　メッセージアプリで麻衣とのトーク画面を開こうと操作していたら、アパートの前にタクシーが停まった。後部座席に乗客が見えるが、降りる気配はない。

　嫌な予感した。