【ルーズに愛して】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

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13.ずっと好きだった男性《ひと》

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 もう、独りで抱えるには、限界だった。

 私はスマホを握り締め、考えた。



 さなえ……はそれどころじゃない。

 千尋……も色々訳アリっぽいし……。

 あきら――!



 私はあきらに電話した。

 メッセージを送って返事が来るまでじっと待つなんて、今は出来なくて。

 四度目の呼出し音を祈る気持ちで聞いていた私は、既に涙目で、震える唇をきつく結んでいた。



 お願い、あきら、出て――!



『もしもし』

「あきら!?」

『うん? どうしたの?』

「助けて……」

『麻衣!?』

「もう……わけわかんない……」

 訳が分からないのはあきらの方だ。

 けれど、私は涙を堪えることも、何でもないことのように取り繕うことも出来ない。

 本当は、ずっと、誰かに聞いて欲しかった。

 二年前の秘密は、陸に会う度に大きさも重さも増して、ツラかった。

 なかったことにしようと決めたのは自分なのに、いざ本当に忘れられているとわかって悲しかった。

 幸せな、とても幸せなひと時が、私の妄想だったんじゃないかなんて、本気で思えた。

「私……、駿介が好きなの……。だけど……、なんで……今更……」

『麻衣?』

「陸は……イギリスに行っちゃうのに……」

『麻衣、今家?』

「う……ん」

『一人?』

「う……」

『今から行くから!』

「え?」

『すぐ行くから』

 考えなしに泣きついたことを後悔したけれど、既にスマホはホーム画面に戻っていた。私は三分ほど呆然として、それから部屋を見回した。



 布団……出しておいた方がいいかな。



 涙も止まってしまった。

 話を聞いてくれるとは思ったけれど、まさか飛んで来てくれるとは思わなかった。



 いや、私があきらの立場なら飛んで行くか……。



 友達の有難みに、また少し、泣けた。

 部屋を片付けていたら、少し気持ちが落ち着いた。

 インターホンが鳴ってドアを開けると、あきらが両手に買い物袋を持って立っていた。少し、ムッとした表情で。

「ダメじゃない、確認しないで開けたら」

 私はフフッと笑った。

「あきら、彼氏かお父さんみたい」

「心配してるんでしょ」

「うん。ごめん」

「涙、止まった?」

「うん」

 あきらが買って来てくれた缶チューハイやお菓子をテーブルに広げると、来てくれた理由も忘れて、楽しくなった。

 昔はよく、こんな風に誰かの家に集まってお泊りパーティーをした。

 あの頃は、好きな人の話や彼の話、デートでどこに行ったとか、キスをしたとかエッチはまだだなんて可愛い話をしていた。



 あれから十年……か。



「で? 陸さんと何かあった?」

 あきらがポテトチップスの袋をベリッと開いた。

「一緒にイギリスに来てくれ、とか?」

「違うよ。そんなこと、言われてない!」

「そうなの!?」

 私は、うんうん、と首を縦に振る。

「食事に誘われたの」

「それだけ!?」

「それだけって――」

 そう、それだけ。

 二年前のことがなければ、友達と食事に行くだけのこと。

 だけど、二年前のことがある以上、違う。
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