【ルーズに愛して】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

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12. 湧き上がる不安

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「ダメもとでプロポーズしたんですか?」

「うん。今思えば、そんなんで結婚してても上手くいってなかったわな。それでも、あの時は麻衣と一生一緒に居たいと思ったんだよ」

 本庄さんの穏やかに目を細める表情から、本気で麻衣を愛していたのがわかる。

 今は違う男を想っていても、いつか自分を愛してくれたらと願ってのプロポーズだったのかもしれない。

「さすがに浮気したって言われた時はムカついて、泣いて謝りでもしたら最後に一発ヤッてやろうかと思ったけど、麻衣は最後まで泣かなかったな。目ぇ見開いて、涙堪えて、ひたすら謝る麻衣を見てたら、浮気相手のことを本当に好きなんだな、って思ってさ。敵わねぇな、って思ってさ」

『いい別れ方じゃなかったから、罪悪感がある』

 本庄さんと会った後で、麻衣はそう言っていた。

 俺はてっきり、変態的なプレイを要求されたとかで別れたんじゃないと思った。



 全然、違った――。



「もともと、俺が一目惚れして、結構強引に付き合ってもらってた感じだったしさ。俺じゃ、ダメだったってことなんだけどさ」

 ふぅっと息を吐き、本庄さんはパンツのポケットから財布を取り出した。

「――なーんて、信じんなよ?」

「え?」

元カレの言うことなんか信じんな。麻衣が浮気なんかするはずないだろ」

「……」



『浮気』じゃなかったら?



 前に言っていた、一度だけ濡れた相手。

 俺がその相手のことを好き『だった』のかと聞いたら、はぐらかした。



 過去じゃなく、現在進行形だったら……。



 思い浮かぶのは、陸さんに耳打ちされて恥ずかしそうにはにかむ麻衣さんの表情。

 他の誰か、大和さんや龍也さんにされても、あんな風に可愛い顔になるのだろうか。

 そんなはず、ない。



 陸さんが浮気相手で、麻衣さんを濡らせた相手――。



「何があったか知らねーけど、今は、麻衣はお前の女だろ? 自信持て」

 そう言うと、本庄さんは伝票をレジに持って行った。俺も後に続いて財布を出したが、二人分の会計を済まされた。

「あのっ――」

「――悩める若者に奢ってやるよ。夜は可愛い彼女に格好よく奢ってやれ」

「……ご馳走様です」

「ん。じゃ、な」

 店を出ると、本庄さんは後ろ手を振りながら道路を渡って行った。

 彼はいい人だ。

 そして、正直な人だ。

 そんな彼でも、麻衣を射止められなかった。

 麻衣に『彼』を忘れさせられなかった。



 どうして、麻衣と陸さんは付き合わなかったんだろう。

 麻衣は今でも陸さんを好きなんだろうか。



 俺は地下鉄の駅まで、そんなことばかり考えていた。
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