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12. 湧き上がる不安
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しおりを挟む「千尋、酔うとすげーイイですよね」
タクシーを停めた有川さんが首を捻り、声の主である龍也さんを見た。暗くて良く見えないけれど、殺気のようなものを感じた。
「けど、ヤリすぎると記憶飛ぶんで、ほどほどに――」
「――ご親切に、どうも」
低い声でそう言うと、有川さんは千尋さんをタクシーに乗せ、自分も乗り込んだ。
三秒ほどで、タクシーが走り出し、みるみる小さくなっていく。
「千尋、明日は腰立たなそうだな」と、大和さんが言った。
「ですね」と、龍也さんが相槌を打つ。
「いや、お前のせいだろ」と、陸さん。
「龍也、酔った千尋と寝たことあんの?」と、あきらさんが不機嫌そうに龍也さんを見た。
修羅場か――!?
「あるわけないだろっ!」
龍也さんが慌てて否定する。強く。
「ふーん」
「いや、マジでないから! 今のは――」
「あの男が千尋に本気なのか確かめたんだろ?」と、陸さん。
「そう!」
「ふーん」と、あきらさんは信じてない様子。
「別にどっちでもいいけど?」
「あきら!」
「しっかし、ありゃ……」と、大和さんが呟く。
「本気も本気だろ。千尋を抱えてなかったら、龍也殴られてたぞ?」
「だな」と、陸さん。
「なんか……すっげぇ気になるけど、すっげぇ聞きにくいな」
「あきらは何か知ってんだろ?」
大和さんに聞かれて、あきらさんは唇をキュッと結んだ。
「『指輪フェチなの』……って、昔千尋が言ってたけど、結婚指輪のことだったのかな」
俺の隣でそう言った麻衣の声が震えていた。顔を覗き込むと、目に涙。
「千尋……幸せな恋愛してると思ったんだけどな」
俺はそっと麻衣の肩を抱いた。麻衣が俺の胸に顔を押し付け、ぐすっと鼻をすすった。
「してるよ」
あきらさんが言った。
「比呂さんはすぐにでもあの指輪を外したいって言ってるのに、そうさせないのは千尋なの。自分で作ったルールに雁字搦めにされて、苦しいのに絶対認めようとしないの。千尋は私以上に素直じゃないのよ」
なにやら、複雑な事情があるらしい。
俺はコートのポケットを探り、さっき配っていたポケットティッシュを麻衣に差し出した。が、ほんの一瞬早く、真っ青なハンカチが麻衣の涙を拭った。
「なんでお前が泣くんだよ」
陸さんだった。
「だって……」と、麻衣がハンカチを受け取って目を押さえる。
「大丈夫だ。面倒そうだけど、千尋はあの男が好きで、あの男も千尋が好きだ。きっと、上手くいくよ」
陸さんが麻衣の頭に手をのせた。
「お前も千尋が幸せそうに見えたんだろ? 俺もそう思うよ。あの男は千尋にベタ惚れだし、千尋が男に甘えるのなんて初めて見たし」
「うん……」
「俺たちは、千尋の恋を応援してやろう」
そう言うと、陸さんは身を屈めて彼女の耳元で何かを囁いた。
俺の腕の中にいる女に耳打ちするなんて、明らかに俺に対する挑発だ。そんなこと、経験の少ない俺にだってわかる。更に、それを決定づけるように、陸さんは腰を伸ばしながら俺を見た。
すっげームカつく!
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