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12. 湧き上がる不安

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「いーねー。駿介、って感じ」

「もうっ! 大和、何言ってんの!?」と、麻衣が大和さんの背中をペシッと叩く。

「あはは! わり、飲み過ぎた」

 大和さんは笑いながら、ガシガシと頭を掻く。

「へぇ。まともだな、見た目は」

 女性を抱えた方の男に、好戦的な目つきで全身見回された。

「で? 君の性癖は?」

「ちょ――、陸! やめてよ」

「そうだぞ、陸。聞き方がストレートすぎるぞ?」と言いながら、大和さんが陸さんの肩にポンと手をのせた。

「せめて、ご趣味は? って聞いてやんないと、答えにくいだろ」



 麻衣の男運の悪さって、どんだけだよ……。



 初めて龍也さんと会った時もそうだった。麻衣のそばにいる男はみんな変態だと決めてかかるあたり、よほど麻衣の男を見る目は信用できないらしい。

 麻衣は慌てて俺と、大和さんと陸さんの間に割って入る。

「大和! 陸も! ホント、やめて。駿介はそんなんじゃ――」

「あ!」

 あきらさんが麻衣の言葉を遮った。こちらへ歩いてくる男性を見ながら。

「比呂……さんですよね? 千尋の彼の」

「はい。有川比呂といいます」

 その男性は、静かに名乗った。

「ありかわひろ? すげー、千尋の名字って相川だよな? 名前、そっくりじゃん」

 有川さんがジロリ、と大和さんを睨みつけた。けれど、すぐに口角を上げて微笑む。

 かなり、胡散臭い作り笑顔。

「千尋を連れて帰りますね」

 そう言うと、有川さんは陸さんの腕を払い除けるようにして、千尋さんを抱き寄せた。

「歩けるか?」

 有川さんの問いに、千尋さんが瞼を上げた。

「比呂?」

「飲み過ぎだろ」

「ん……」

「帰るぞ」

「ん……」

 有川さんは千尋さんを抱きかかえ、彼女の耳元で優しく声をかけた。千尋さんも安心しきったように身体を預ける。



 なんか、ドラマみてぇ。



 俺には持ち合わせていない、大人の包容力、みたいなものを見せられ、格好いいと思った。が、次の瞬間、千尋さんの口に入った髪を払おうとした左手に、目をパチクリさせて
しまった。



 指輪……?



 きっと、気づいたのは俺だけじゃない。

 有川さんの左手の薬指。

 どう見ても、結婚指輪だ。

 けれど、千尋さんは指輪をしてない。



 それって、つまり――。



「おい! あんた――」

「――大和さん!」

 興奮気味に有川さんを呼び止めた時大和さんを、あきらさんが止めた。

 どうやら、この場のみんなが有川さんの指輪に驚いているよう。

 有川さんは俺たちに何か言おうと口を開いたが、迷って、やめて、また口を開いた。

「じゃ、俺たちはこれで」

 そう言って、有川さんはタクシーを拾おうと大通に目を向け、千尋さんは彼の腰に腕を回した。
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