【ルーズに愛して】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

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11.波乱の忘年会

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 みんなの声が、すごく遠くに聞こえる。フィルターがかかったように、上手く聞き取れない。



 陸が……イギリスへ……。



 慌てるみんなをよそに、陸は頬杖をついてビールを飲む。

「ずっと、家庭内別居状態だったんだよ。離婚するにも、仕事が忙しくてろくに話し合う時間もなかったってだけで二年もずるずるしちまったけど、俺のイギリス行きが決まって
、記入済みの離婚届をテーブルに置いておいたら、いつの間にか記入してあった」

「そんな……」と、私は思わず漏らした。

「そんなもんだった、ってことだ」

「……」

 誰も、何も言えなかった。

 突然の報告に、私は信じられないという思いが強く、急激に心拍数が上がるのを感じた。

「それは、飲みたくもなるよね」と、千尋。

「よし! 飲もう!」

 千尋が呼出しボタンを押して、ウェイターを呼んで、ビールのお代わりを注文した。

 私は大きく息を吸い込んで、陸に聞いた。

「いつ、行くの?」

 声が、震える。

「イギリス、いつ行くの?」

 涙が、出そう。

「すぐってわけじゃない。来年の秋くらいになると思う」

 陸の心配そうな眼差しに、ハッとした。

 私が泣いたりしちゃ、ダメだ。 

「そっか……。きっと、すごい、ことなんだよね?」

「ああイギリス向こうでの勤務経験があれば、何年かして日本に戻った時には総支配人に昇格できる」

 あきらにハンカチを差し出され、私は急いで涙を拭った。

「おめでとう、陸」

 ぎこちなかったかもしれないが、精一杯の笑顔で言った。

「サンキュ、麻衣」

「おめでとう、でいいのか? 離婚はめでたくないだろ」と、大和がボリボリと頭を掻く。

「陸さんが吹っ切れてるなら、いいんじゃないですか」と、龍也。

「そうよ! おめでとう、だよ」と、千尋。

「そうか。陸がそれでいいなら、いいけどよ」

「いーんだよ」

 陸の表情に迷いはなく、気持ちは前向きのようだ。

 千尋が勢いよく立ち上がり、グラスを持ち上げた。

「じゃ、陸の前途を願って、もっかいかんぱーい!」

「かんぱーい!!」

 みんなもつられてグラスを掲げる。

「結婚する予定とかあるなら、俺が行く前に式を挙げてくれよ。イギリスから帰ってくんのは大変だからな」

「そうだよな! ってか、予定ある奴いんのか?」と、大和さん。

「麻衣じゃない?」と、千尋。

「あ、年下だから、結婚はまだ早い?」



 け、結婚て――。



 動揺のあまり、駿介の言葉を思い出してしまった。

『不感症が治ったら、俺と結婚してください』

「麻衣に彼氏?」

 呟いた陸の声が、あまりに冷ややかで驚いた。

「そう! 前に話してた後輩くんと付き合い始めたんだって」

「え、そいつ、まともなのか?」

「まともそうでしたよ?」と、龍也が答えた。

「俺、偶然会ったことがあるんですけど、すげー好青年な感じで、麻衣さんのことダイスキー! ってオーラ出まくりでした。そう、言ってたし」

 龍也は飲むと、テンションが上がる。まぁ、大抵の人はそうだろうが、龍也の場合は言葉遣いがチャラくなる。

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