【ルーズに愛して】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

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10.結婚宣言

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『駿介、女の好み変わったね?』

 再会した真綾は、付き合っていた時と変わらない笑顔で言った。正確には、あの頃よりも垢抜けた大人の女の表情で。

 大学時代から、実年齢よりも上に見られる容姿と落ち着きがあって、俺は見下されないように必死だった。

 麻衣さんが、自分の知っている俺とは別人のように感じたのは当然だ。

 俺は麻衣さんにするように、真綾に甘えたことはない。匂いだけで勃つこともなかった。

 いつも、余裕のある男を演じるのに一生懸命だった。

 けれど、それが苦痛だったわけじゃない。

 大人ぶって、格好つけている自分に酔っていたんだと思う。

 だから、さほど給料の良くない楠行政書士事務所を第一志望に定めたいと言った時、頭ごなしに否定されて、真綾への熱が完全に冷めた。

 俺の情熱は独占的で、真綾に向けられていた情熱が、楠行政書士事務所に移っただけ。で、更に麻衣さんに移った。

 が、麻衣さんへの情熱は、即ち仕事に対する情熱で、麻衣さんに認めて欲しくて仕事を頑張れば、男としての自信もついた。

 そして、ついには仮とはいえ、麻衣さんの恋人にまでステップアップした。

『年上? そうは見えないけど』

『関係ないだろ。話がそれだけなら、もう――』

『飲み会。駿介が来ないから、いつまでも私が振ったせいだって言われるんだけど』

『知らねーよ』

『次のは、来てよ。もう、私とのことを引きずってるわけじゃないなら』

 カチンときた。

 真綾のことを引きずっていたのは一日だけだ。それを、何年も未練がましく引きずっていたように言われるのは、ムカつく。

『わかった』

 吐き捨てるように言い、俺は麻衣さんが入って行ったカフェに向かうべく、真綾の横を通り過ぎようと一歩を踏み出した。

『駿介』

 グイッ、と両手で腕を掴まれ、真綾の胸に押し付けられる格好になった。

『あの頃より、格好良くなったね』

 何も感じなかった。

 いや、感じた。

 不快感。

 こんな、安い色仕掛けをするような女だったろうか?

 とにかく、麻衣さんのような柔らかさも温かさもない真綾の胸には、何も感じなかった。

 一刻も早く、麻衣さんの元へ行きたい。

 俺は少し乱暴に、真綾の腕を振り払った。

 通行人の学生カップルが、俺たちを見てひそひそと耳打ちし合いながら、通り過ぎて行った。

 痴話喧嘩のように見えたのかもしれない。

 自分たちはああはなりたくない、なんて話していたのかもしれない。

 冗談じゃない。

『それは、どーも。じゃ、な』

 棒読み、かつ早口で言うと、俺は麻衣さんに向かって走り出した。
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