【ルーズに愛して】私の身体を濡らせたら

深冬芽以

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10．結婚宣言

１

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「相変わらず、赤が好きなんだな」

　会計を済ませた後、トイレに行く麻衣さんを待っている俺は、背後からの声に振り向いた。

「改めまして、麻衣の元カレです」

　そう言った本庄さんの顔に、さっきまでの爽やかな営業スマイルはない。

「どーも。今カレです」

「若いね」

「二十五です」

「やるな、麻衣」

「惚れたのは、俺です」

「……だろうね」

　その一言が、妙に引っ掛かった。

「あ！　あれか。指導係してる後輩。七つ下って言ってたもんな」

「それ、です」

「巨乳好き？」

「はっ！？」

「単なる年上好き？」

「――麻衣さん好きです」

「はははっ！　カッコイイー」

　バカにされて、ムッとした。

「麻衣さんに鞭持たせたの、あなたですか？」

「はっ！？」

　仕返しとばかりに、続ける。

「じゃあ、セーラー服着せた？」

「おいおい。俺はあいつの男の中ではまともだったと思うぞ？　聞いた限りでは、な」

「へぇ」と、疑いの眼差しを向ける。

「じゃあ、どうして別れたんですか？」

「……」

　一瞬、眉間に皺をよせ、目つきが鋭くなる。が、すぐに胡散臭い笑顔を見せた。

「忘れたな」

「やっぱり、麻衣さんに嫌われるようなことをしたんでしょう」

「何があったにしても、過去のことだ」

　エスカレーター脇から、麻衣さんの姿が見えた。今カレと元カレが並んでいる姿を見て、麻衣さんが小走りで近づいてくる。

「プロポーズ、断られたんだ」

「えっ！？」

　本庄さんは麻衣さんを見つめながら、言った。その横顔は、とても穏やかで、少し寂しそう。

「麻衣、まだ大学の時の仲間とつるんでる？」

「え？　あ、はい。たまに集まってるって――」

「――そうか。あ！　麻衣、新しい電化製品を買うと、説明書を読破しようとするから、適当に使い方教えてやって」

「はぁ……」

　何を話しているのか心配なのだろう。

　麻衣さんは俺たちの前まで来ると、少し困った顔をして、それから俺に言った。

「ごめんね、お待たせ」

「いや。じゃ、帰ろうか」

「うん。基弘、今日はありがとう」

「いいえ。お買い上げありがとうございました」

　本庄さんは営業スマイルで腰を折った。

「またのご利用、お待ちしております」

　炊飯器を買いに行って、まさかの元カレとの再会。アーンド、元カレにプロポーズされていた過去まで聞いてしまって、今の俺なら米も炊けるんじゃないかと思うくらい、体内の血液が沸々と沸き立っていた。

　とはいえ、全ては過去のこと。

　俺より七年長く生きている麻衣さんに、俺以上の過去があるのは当然で、それを気にしていては付き合ってはいけない。

　俺にだって、元カノがいた。

　だが、現在いま好きなのは、麻衣さん。

　そんなことを考えていたら、いつの間にか麻衣さんのアパートに帰っていた。

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